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「あと一回だけ! ほんと! 後生だから」
「ハァ?」
(コイツは何を言っているんだろう)
アタシはとある組織の女幹部。
ヒーロー戦隊のレッドに地球用の名前と借宿がバレたのは痛手だった。毎週末、戦いが終わると家までやってくる宿敵っていうのはどうなんだろう。
「マジで洗脳して欲しいんだ! ほら、先週やってくれたやつ〜!」
「ア、アンタ馬鹿なの!? な、なんでまた洗脳して欲しいとか言ってるのよ!」
コイツが言ってるのは、先週の戦いでアタシがかけた洗脳光線のこと。ヒーロー戦隊のレッドだという肩書きを忘れさせて、一般人であるという風に信じ込ませたのだ。
「そこをなんとか! 洗脳を!」
アタシはアパートの玄関前で”洗脳”云々と言い出す危ない奴をひとまず部屋の中に入れることにした。
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「よく覚えてないけど、多幸感って奴かな。なんか洗脳されてる間、すげー幸せだったんだ」
用意した緑茶を飲みながら、レッドは少しずつ語り始めた。ちなみに洗脳中のことは記憶に残らない。
「へぇ。そりゃあ一般人になったら色んなストレスから解放されたんじゃない?」
「そうかも。いつもレッドだから皆を引っ張るべきだって気張ってたから。でも、レッドじゃない俺なんて存在価値ないからさ」
コイツはいつもそうだ。
仲間の前では気丈に振る舞っているが、その内面はとても傷つきやすい。
「ボソッ)そんなコトないのに......」
「えっ? なんて言った?」
「何も言ってないわよ! いい? あと一回だけだからね!」
アタシは隠していた眉間の三番目の眼を開いた。
*
「あれ? 貴女は一体? それにこの体勢......」
「良いから。そのまま休んでなさい」
アタシはレッドーーであることを忘れた男に膝枕をしている。先週もこうして膝枕をして、頭を撫でてあげた。
(このまま、組織とか種族とかの垣根を越えて二人で過ごせたら......)
いつの間にか抱き始めた淡い恋心は、まだ誰にもバレていない。
「母星が破壊された同胞は地球を植民地にすることでしか生き延びられないのに、こんな」
(あと一回って約束だから。もう、しないから)
アタシはもう二度と来ない何者でもない二人の時間を惜しんだ。
*
「え!? 地球人と和解する!?」
半年後、司令部の命令は気が狂っていた。地球の科学者が何故か移住に協力的らしい。
(何故移住を知っている!?)
インターホンが鳴った。レッドだ。
「あともう一回、膝枕してくれないかな......?」
ーーおわり
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