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たまたま近くにいたのか、それともずっと隙を狙っていたのか。
自販機の影からあの野良猫が忍び寄り、歩道に置いたチーちゃんの鳥籠に飛び付いたのだ。
「ビビッ!ビビビッ!」
あっ!と思った時には鋭い爪が鳥籠に突き立てられていた。
チーちゃんを必ず守ると誓ったはずの望夢達は、野良猫に敗北したと言える。
しかし望夢の両親が、愛する家族の外出の為に用意した鳥籠だ。一撃で壊れる様な粗悪品ではない。慌てて大夢が鳥籠を両手でガードする。
野良猫の奇襲も失敗に終わった。
「があっ!」
ジャンボの反応が遅れたのは暑さのせいか、風上で匂いに気付かなかったのか。
この野郎と牙を剥いた強敵と人間達から身を翻し逃走を図る野良猫は、しかしここで狡猾な狩人らしからぬミスを犯した。
ガードレールの下をくぐって車道へ出てしまったのだ。
猫の交通事故が多いのは、咄嗟に停止や後退が出来ないからだと言われる。
危険だ、と思っても前に突っ切るしか出来ないからだと。
だが最近はなんと、進んではいけないと判断してきちんと止まれる野良猫も増えている。
最も人間から愛されている動物と言っても過言ではない猫。
それなのに過酷な運命の星の下に生まれた憎まれっ子達。
彼等野良猫はその誇り高き瞳に、人間が勝手に作り上げたコンクリートジャングルを映しながら、生きる為に生き抜く為に日々学んでいるのだ。
チーちゃんを狙うこの猫も、普段なら止まれる猫だった。
だが犬と人間に追われて逃げ道を見失い、思わず飛び出したそこは、鋼鉄の塊が行き交う道。
──行ける!私の脚なら渡れる!
だが、命からがら全てを賭けた自慢の脚には、僅かな迷いがあった。
「ああっ!」
思わず望夢は叫び、目を逸らした。
ギッ!というブレーキ音が短く響く。
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