スマホよ、人に涙を見せろ

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野良猫は車の下を飛ぶ様に駆け抜け、向こう側の歩道に飛び込んだものの、苦しそうに唸りながらごろごろと転がっている。 望夢達は信号が変わるのを待って横断歩道を駆け渡る。 どうやら野良猫は後脚を轢かれてしまった様だ。 鳥籠へアタックした時にはまさか、自分がのたうち回る事になるなんて考えもしなかっただろう。 どうしよう、と兄に尋ねようとして、望夢は目を疑う。 なんと大夢は逃げる事も出来ず痛みに苦しむ野良猫にスマホを向け、動画を撮っているのだ。 「何してんだよ!?」 「いいんだよ、こういうのも観たい人はいるんだから!ざまあみろだ」 確かに迷惑な猫だ。 でも、だからってそれは違う。 死んじゃうかもしれないのに。 ジャンボも困った様にクーンと鳴いている。 それでも撮影を止めない大夢だが、突然スマホのアプリが閉じて待機画面に戻ってしまった。 「あれっ?」 スマホの画面が濡れている。 大夢の汗が落ちた為に誤作動をしたのだろう。 「くそっ、この」 大夢はタオルで汗を拭うが、スマホは勝手にゲームアプリを立ち上げてしまう。 「やめてよ兄ちゃん。 スマホも嫌だって言ってるじゃないか!」 みんなの為にみんなを守る。 その「みんな」には、もちろん大夢も含まれている。 今は撮影を止めさせる事が、兄を守る事だと望夢は思った。 そこへ二人の後ろから怒声が飛ぶ。 「あんた達何してるの!」 振り向くと、見た事も無い程怒った顔のママがいた。
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