スマホよ、人に涙を見せろ

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ママはタオルに野良猫を包んで抱き上げ、ジャンボ達のかかりつけの病院へ連れて行った。猫は多少の抵抗はしたが、大人しく従った。 そこまでする必要はなかったかもしれない。しかし見捨てる事は出来なかった。同じ(ママ)として。 治療費を捻出する為にパパのお小遣いは減らされたが、パパはむしろ喜んでそれに応じた。 もちろん、望夢と大夢も。 種類によるが、大型犬の寿命は約十年程。 セキセイインコは五〜十年。 そして飼い猫は約十二〜十八年。 だが野良猫は三〜五年と聞けば、少しは優しくしてあげたくなるというもの。やはり野生は過酷だ。 では、家族よりペットより常に人の傍に付き従うスマホは、何年くらい一緒にいてくれるのだろう。 この上なく便利なこの機械は、ありとあらゆる情報を持ち主に届けてくれる。 その電子の目で見たものを世界中に届けてくれる。 素敵なもの、美しいもの。 楽しいものや嬉しいもの。 そして、残酷なものや怖いもの。 普通に生きていたら見なくて済む様なものまで。 その全てを否定は出来ない。 必要な人もいる。必要な場合もある。 だが、人に寄り添い人の為に働き、短い生涯を人に捧げるスマートフォンのレンズに。 人と違って目を逸らす事が出来ない、見せられたものを受け入れるしかない澄んだ瞳に。 あなたは何を映すだろう。 それを誰に届けるのだろう。 幸い猫の脚はきれいに治り、退院の時に「次は知らないよ」と言ったママの言葉を理解したのか、望夢達の前から姿を消した。 きっとどこかで子猫達と元気に暮らしているのだろう。 そして大夢も、彼なりに思う所があった様だ。 だってほら。 「兄ちゃん!これ絶対バズるよ!」 あれから大夢が撮った画像には、彼等兄弟が届けたかった、目には見えないものが確かに感じられるのだから。
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