スマホよ、人に涙を見せろ

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ジャンボが訳もなく吠える事はない。 またか? 望夢がベランダに出ると、目にも止まらぬ早さで庭から逃げて行く影。 つい最近近所に住み着いた白黒の猫だ。 こいつはチーちゃんを狙っている。 これぞ野生動物、と言わんばかりのハンターの目で、窓の向こうからチーちゃんを見ているのを何度も目撃している。 だがジャンボが吠えればあっという間に逃げて行く。どうやら人間よりジャンボの方を恐れているらしい。 「あの子も仲良く出来たらいいけど、さすがに無理よねえそんなの」 頼んだね、とママがジャンボの頭を撫でた。 ジャンボは雄々しく、小さく吠えた。 「ただいまー!」 「わんっ」 「ビッ!ビビビッ!」 続いて帰宅した中学生の兄、大夢(だいむ)も二人からの熱烈アタックで歓迎される。 「おう、よしよし」 そして彼はチーちゃんを籠から出してジャンボの背中や頭へ乗せるとスマホを構える。 チーちゃんはもちろんジャンボも喜んでいる様に見える。 望夢もママも二人の写真や動画を撮るのは好きだ。特にママなんてご近所さんとしょっちゅう「うちの子がかわいい会議」をしている。 だが、一番撮影しているのは兄だろう。 「いやあ、かわいいなあ。めっちゃかわいい」 実際、ただでさえ可愛いジャンボとチーちゃんが遊んでいる姿は本当に可愛い。 少しくらい嫌な事があっても忘れてしまう程。 微笑んで眺めている望夢に兄は宣言した。 「望夢、俺は今のうちからジャンボとチーちゃんの画像をたっくさん集めておくんだ。 そして十八歳になったらチューチューバーになる!」 「えっ?でも……」
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