スマホよ、人に涙を見せろ

9/12
前へ
/12ページ
次へ
望夢は時々、ジャンボは中に人が入ってるんじゃないかと思う事がある。中の人はみんなに気を遣い過ぎだと。 散歩の時も相手が彼等兄弟なら元気にリードを引っ張ってはしゃいで見せるが、決して羽目を外す事はない。 ママの時はまるで要人警護のSPの様にゆっくりと前を歩き、俺が守るぜ、と言わんばかりに時々振り向いてよしよしをねだる。 大人の男性であるパパが相手なら、少し顔色を伺いながらダッシュしたり、パパも運動しろよとぐいぐいリードを引く事も。 生来の賢さに加えて、幼い頃からそのつぶらな瞳に彼を愛する人間たちの姿を映して来たからだろう。 同じ様に育ったチーちゃんは、その小さな丸い瞳に映した世界の中で、自分を人間だと思っている様だ。大きさは随分違うが対等な仲間だと。それはそれで可愛らしい。 だがジャンボは人は自分と違う動物だと理解した上で、体力的には劣る人に対して一歩引いて付き合ってくれている。あくまで望夢の想像に過ぎないが、きっとそうだろう。 最近は子供が遊んではいけない、公園らしからぬ公園もあるが、幸い望夢の近所の公園は犬と遊ぶくらいは禁止されていない。 そこへ向かう途中、早くもジャンボは舌を出してハッハッと荒い息遣いを始めた。御近所の人にも好かれている立派な紳士だが、暑いのは得意ではない。やはり着ぐるみだからなのか。 普段は朝か夕暮れにしかお散歩なんて行かないのだ。 「暑いなあジャンボ。俺達も何か飲もうか望夢、俺が奢るよ」 いつもの通学路にあるジュースの自販機の前。アスファルトの歩道に大夢はしゃがんで、一旦チーちゃんの鳥籠を道に置いた。 そして水の入ったペットボトルを取り出し、左の手の平にそれを注ぐ。 じゃぶじゃぶと美味しそうに飲むジャンボ。 ガードレールの向こうを白い車が通り過ぎ、次に大夢の後ろの方から良い感じに風がそよぐ。 二人が「ふう」と空を見上げた、その時。 一瞬の出来事だった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加