アムンゼン 1

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 正直、ありえん展開だった…  このアムンゼンのことで、悩んでいるにも、かかわらず、その当人から、その悩みを聞いてやろうと、言われるとは?  まさに、お笑いだった…  だから、私は、遠慮した…  「…いや、こればかりは、どうにも、ならんさ…」  と、言ってやった…  「…いかに、オマエでも、どうにか、なる話じゃないさ…」  私は、言った…  が、  これが、いかんかった…  いかんかったのだ(涙)…  この言葉が、アムンゼンのプライドを傷付けた…  アラブの至宝のプライドの傷を付けた…  「…ボクの力でも、どうにも、ならないこと?…」  「…そうさ…」  「…よろしい…ならば、余計に、矢田さんの悩みを聞きたくなりました…サウジの王族として…アラブの至宝として、その矢田さんの悩みを解決しましょう…」  アムンゼンが、断言する…  これが、いかんかった…  まさに、藪蛇…  まさに、藪を突いて、蛇を出した…  そういうことだった…  そういうことだったのだ(涙)…  「…さあ、矢田さん、こちらへ…」  アムンゼンが、私の手を取って、強引に、私をどこかへ、連れて行こうとした…  「…なんだ? …アムンゼン…私をどこへ連れて行く気だ? …まさか、地獄じゃ、ないだろうな?…」  私は、うっかり、本音を漏らした…  つい、うっかりと、本音を漏らして、しまった…  「…なにが、地獄ですか? 矢田さん…ホントに、今朝、なにか、悪いものを、食べたんじゃ、ないでしょうね?…」  「…食べて、ないさ…」  私は、繰り返した…  「…だったら、前夜に食べたのかも、しれません…」  アムンゼンが、真顔で、返した…  私は、それを聞いて、ふと、いいことを、思いついた…  このまま、腹が痛いとか、頭が痛いとか、言って、自宅に戻れば、いいと、思ったのだ…  そうすれば、アムンゼンの自宅に行かなくてすむ…  もし、行ってしまえば、余計に、アムンゼンと、仲良くなってしまう…  これまで以上に、親しくなってしまう…  だから、腹が痛いとか、頭が痛いとか、言って、このまま、自宅に戻れば、いい…  そう、思ったのだ…  だから、すぐに、それを実践することにした…  私は、突然、その場にしゃがみ込んだ…  「…腹が痛いさ…」  と、言いながら、しゃがみ込んだ…  「…どうしました? …矢田さん?…」  「…腹痛さ…いきなり、きてな…」  私は、言った…  実に、痛そうな表情を作って、言った…  我ながら、名演技だった…  アカデミー賞並みの、名演技だった…  「…これでは、とても、朝食は、食べれんさ…家に戻って、ベッドに寝ているさ…」  私は、苦しそうな表情で、言ってやった…  すると、だ…  思いがけないことが、起こった…  「…そうですか…それは、大変です…オスマン…」  と、アムンゼンが、連れの長身で、イケメンの甥を呼んだ…  「…ハイ…わかりました…」  オスマンが、スマホを取り出し、急いで、どこかに、連絡した…  アラビア語か、なにかで、連絡した…  当然、私には、なにを、言っているか、わからない…  が、  電話をした直後、いきなり、目の前に、金色のロールスロイスが、現れた…  私は、仰天した…  文字通り、仰天した…  「…なにか、あったときのために、近くに、潜ませているんです…」  アムンゼンが、言う…  「…オスマン一人では、ボクの身を守れるか、心配です…ですから、他のボディーガードを常に近くに、待機させているんです…」  アムンゼンが、説明する…  そして、説明が、終わるやいなや、金色のロールスロイスから、慌てて、降りてきた、屈強なボディーガード数人が、私を取り囲んだ…  「…矢田さんが、急病だ…さあ、早く、自宅に運んでくれ…」  「…わかりました…殿下…」  屈強なボディーガードの一人が言う…  きっと、この男が、ボディーガードのリーダーなのかも、しれんかった…  これは、大事になった…  まずい…  さすがに、まずい展開だ…  私は、焦った…  猛烈に焦った…  が、  さすがに、急に治ったとは、言えん…  口が裂けても、言えん…  だから、  「…いや、オマエの自宅より、救急車の方が…」  と、言いかけた…  とっさに、口にした…  その方が、アムンゼンの自宅に、行くことが、ないからだ…  すると、だ…  これも、またアムンゼンのプライドをいたく傷付けたようだった…  「…なにを言うんですか? 矢田さん…ボクの自宅には、医者が、常駐しています…」  と、アムンゼンが、言った…  「…なんだと? 医者が、常駐?…ウソだろ?…」  「…ウソでは、ありません…」  アムンゼンが、答える…  私の脳裏に、たしか、以前、一度だけ、訪れたことのある、アムンゼンの豪邸が、浮かんだ…  美術館や、博物館か、なにかを、改装した豪邸だった…  たしかに、あれほどの豪邸なら、医者が、常駐していても、おかしくはない…  なにしろ、このアムンゼンは、金持ちだ…  サウジの王族だ…  だから、もしかしたら、あの豪邸に、手術室もあるかも、しれん…  なにか、あったときに、あの豪邸で、手術をするかも、しれん…  「…さあ、早く矢田さんを…」  アムンゼンが、言うやいなや、私は、大勢の屈強なボディーガードにカラダを持ち上げられ、荷物を扱うように、楽々と、金色のロールスロイスに運ばれた…  嫌もなにも、なかった…  あっと、いう間だった…  私は、どうして、いいか、わからんかった…  わからんかったのだ(涙)…  まさか、いまさら、腹が痛いのは、ウソだったとは、言えん…  口が裂けても、言えん…  だから、なすがまま…  私の顔は、あまりの事態に、蒼白となった…  血の気が、引いて、白くなった…  私と、いっしょに、金色のロールスロイスに乗り込んだ、アムンゼンが、私の顔色を見て、  「…矢田さん…顔が、白いです…」  と、告げた…  「…そんなに、痛いんですか?…」  と、アムンゼンが、心配そうに、声をかける…  さすがに、この状態で、仮病とは、言えんかった…  いかに、私が、図々しくても、言えんかった…  が、  さすがに、それを、肯定することも、言えんかった…  「…その通りさ…」  と、言えんかった…  だが、ウソをつき続けているのは、さすがに、心苦しい…  だから、  「…大丈夫さ…たいしたことじゃないさ…」  と、言った…  アムンゼンをこれ以上、心配させないためだ…  「…いつものことさ…」  「…いつものこと? ひょっとして、矢田さんは、カラダに持病を抱えているんですか?…」  アムンゼンが、真顔で、聞く…  私は、  「…違うさ…そうじゃないさ…」  と、否定したかったが、言わんかった…  これ以上、なにか、言うと、話が、ドンドンとんでもない方向に、走ってしまうような気がしたからだ…  だから、なにも、言わんかった…  言わんかったのだ…  「…そうですか…だったら、余計に、急がなければ、なりません…オスマン…電話を…」  「…ハイ…わかりました…」  私は、それを、聞いて、不安になった…  「…どこに電話をかけているんだ?…」  「…首相官邸です…」  「…しゅ、首相官邸?…」  私の声が、ひっくり返った…  「…オマエ…どうして、そんな場所に?…」  「…直接官邸に電話をかけて、そこから、警察に連絡した方が、早いでしょ?…」  「…なにが、早いんだ?…」  「…パトカーですよ…パトカー…」  「…なぜ、パトカーなんだ?…」  「…いくら、この金色のロールスロイスでも、街中を、早く走ることは、できません…パトカーに先導してもらうのが、一番です…」  アムンゼンが、説明する…  「…だったら、なんで、官邸なんだ? 警察に電話するのが、普通だろ?…」  「…いかに、ボクでも、日本の警察を動かすことは、できません…官邸に電話をかけて、首相から、警察に電話してもらうのが、一番…」  「…なんだと? …首相から?…」  「…別に、首相でなくても、首相補佐官でも、なんでも、いいんです…首相の名前で、警察に連絡すれば、一刻も早く、パトカーが、やって来るでしょう…」  アムンゼンの言葉が、最後まで、言い終わらない間に、  ウー  ウー  と、サイレンを鳴らしながら、パトカーが、数台、やって来た…  そして、一台のパトカーから、制服を着た警官二人が、ただちに、やって来た…  オスマンが、  「…自宅まで、先導をお願いします…」  と、言うと、制服を着た警官二人が、敬礼をした  「…ハッ!…」  と、言って、最敬礼をして、頷いた…  私は、それを、見て、驚いた…  「…どうしたんだ? 一体?…」  「…きっと、首相官邸から、警視総監に、連絡がいったんだと、思います…」  アムンゼンが、説明する…  「…警視総監だと?…」  「…どんな組織も、上と交渉するのが、一番です…下の方が、人間が、真面目で、融通が利かない人間が、多い…」  「…そうなのか?…」  「…そうです…」  アムンゼンが、したり顔で、言う…  そして、まもなく、パトカーのサイレンが、なり、赤橙が、光った…  パトカーが数台、列をなして、走り出した…  それから、私たち3人、アムンゼン、オスマン、そして、この矢田トモコを乗せた金色のロールスロイスも、走り出した…  正直、わけのわからん展開だった(涙)…  この矢田が、つい、仮病を使ったばかりに、まさか、こんなことが?…  考えもしない展開になった…  まさに、悪夢…  悪夢にほかならなかった…  これで、もし、仮病がバレたら、目も当てられない…  そのことを、考えると、思わず、カラダが、震えてきた…  この矢田トモコの身長159㎝のカラダが、震えてきたのだ…  すでに、どうして、いいか、わからんかった…  わからんかったのだ(涙)…                <続く> 
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