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「違うの。映画なんか、どうでもよくなっちゃうくらい悠李を見てたの。悠李が、かっこよくて。わたしだけの悠李でいて欲しいって」
ガシャガシャと騒がしい音が聞こえてくる。
顔を上げると、悠李は落としそうになったジュースを持ち替えながら、目を丸くさせていた。
「……は?」
わたしと目が合うなり、悠李は腕で素早く顔を覆った。
明らかに挙動不審なその様子に、やっぱり言わなければ良かったと肩を落とす。
「ごめんね。今の忘れて」
「忘れられるかばか」
悠李は腕をおろし、ドリンクホルダーにジュースを置いた。
いつもの綺麗な横顔にドキリと胸が高鳴る。
お互いの間に遮るものがなくなって、何となく気まずくなったわたしは距離を取るように座り直した。
「おれも見てたよ。彩月のこと」
「え、わたしのこと?」
眉が跳ね上がり、勝手に口元が開く。
悠李はこちらに振り向くと、きょとんとするわたしに真っすぐな視線を投げた。
「ずっと見てたよ。絶対、離さねぇと思ってた」
「……は?」
みるみる頬が熱くなる。
思いがけない告白に狼狽えるわたしの目の前に、悠李は手を差し出した。
「とりあえず手、繋ぐ?」
「え、手?」
「はい、こっち」
悠李の手が、少し強引にわたしの手を包み込む。
冷たいジュースで冷えた指先から、優しい体温がゆっくりと伝わってきた。
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