知りたいこと、知らないこと

2/2

55人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
「大体、この時間はここにいるよ」 「そうなんだ」  初めて知った。  思えば、悠李とはずっと仲良くやってきたけど知らないことばかりだ。  お互いに知らなくていいこともあるだろう。  でも今のわたしは、悠李のことを少しでも知りたい気持ちでいっぱいだった。   「ねぇ、クラブって楽しいの?」 「どした、いきなり」  「だって悠李、よく行ってるじゃん。どんなとこなのかなと思って」  悠李が不思議そうに首を傾げる。 「行きたいの?」 「どんな場所なのか知りたい」 「彩月は知らなくていいよ」 「何で?」 「変な男がいっぱいいるから」 「それなら大丈夫だよ。端っこにいるし」 「余計に目立つだろ」 「目立つ訳ないじゃん。誰にも気付かれないと思うよ」 「目立つよ。おれなら声かける」 「それはわたしのこと知ってるからでしょ? わたしも悠李がいたら声かけるよ」 「そういう意味じゃねぇよ」  二人の間に流れる空気が変わっていくのが分かる。  そこに穏やかさは微塵もない。  けれど、少し話すと気持ちがワッと溢れだしてきて止められなくなった。 「わたしのことを知らなかったら、端っこに人がいても気付かないよ。誰とも話すつもりないし」 「彩月にその気がなくても相手は違うよ」 「わたしってそんなこと思われるタイプじゃないよ」 「彩月がそう思ってるだけだから。てか、何でそんなに行きたいんだよ」 「何でって……」 「おれ以外の男と遊びたくなった?」 「何でそうなるの? さっきも言ったけど、どんな場所か知りたいの。どんな人が来てるのかとか」 「彩月は知らなくていい」 「知りたいの」 「おれが知らなくていいって言った意味、分かってる?」    ―――わたしが地味だから?  落ち着きを取り戻したくてホットティーを一口、口に含む。 「分かってるよ……。お酒もたくさん飲めないし洋楽とかもあんまり知らないし。でもわたしも行ってみたいの」  悠李は小さな溜め息をつくと、イスの背に押し付けるように身体を預けた。  怒っているのが丸わかりの態度だ。 「全然分かってねぇじゃん。おれは彩月と付き合ってから行ってないよ」 「じゃあ、また悠李が行きたいと思った時に誘ってくれたら、」 「嫌だ。行かない。行くつもりもない」  つまらさそうに返事をした、悠李の冷めた視線が窓の外に向く。  他の女の子とは一緒に行くのに。  クラブでは女の子とたくさん遊ぶのに。  わたしとは行きたくないらしい。 「そっか、分かったよ」    悠李からの返事はなかった。  少しでも悠李のことを知れたらと思ったけど無理だった。  やっぱり、わたしなんかには無理だった。  
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加