ミッドナイトブルー

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ミッドナイトブルー

 冷たい風がビルの隙間を鳴らす夜。  一人暮らし用の狭い玄関の扉を開けると、そこには悠李が立っていた。  突然のことで驚くわたしをよそに、悠李はホッとしたような表情を浮かべている。  悠李はそのまま、玄関のドアにそっと手を添えた。  年季の入った薄暗いマンションの廊下の壁をバックに、お洒落な悠李が一層映えていつもよりもかっこいい。  それに比べて、わたしときたらモコモコの白いルームウェアを着ていてまるでシロクマみたいだ。  普段からもっと可愛い格好をしておけば良かったと、恥ずかしさをこらえながら唇を開く。 「急にどうしたの?」  悠李は、黒のスタジャンとパーカーを重ね着した袖から覗く指先を口元に当て、小さな咳払いをした。 「……ちょっと寄りたくて」 「悠李の家とうちのマンションって真逆じゃん。ちょっと寄るって距離じゃないと思うけど」 「顔が見たかったんだよ」 「え、顔……? わたしの?」 「そう、彩月の」  いかにも恋人らしい理由で何だか余計に恥ずかしい。  わたしは悠李から逃げるようにして視線を落とし、深く頷いた。 「こんな理由で会いに来たのだめだった?」 「ううん、違うよ。違うの、そういうのじゃなくて」 「いきなり来てごめん。じゃあ、また明日大学で」  悠李が行ってしまう。  わたしは背を向けた悠李を追いかけて玄関を出た。  後ろでガチャンと扉が閉まる音を聞きながら、悠李のパーカーの裾を控えめにつまんで引っ張る。 「今日、黙って先に帰っちゃってごめんね。それで来てくれたんでしょ? わたしも会いたかったの。でも恥ずかしくて……ごめんね。会いに来てくれて嬉しかったよ、凄く」  堰を切ったように溢れ出た自分の言葉が恥ずかしくて、再び俯いた。  服を引っ張る手に、自然と力がこもる。 「いいよ、おれも昼間はごめん。そんなにクラブに行きたかった?」  緊張が緩んだのか、悠李の口調が柔らかくなる。  わたしは首を横に振った。 「悠李のことがもっと知りたかった……んだけど、それは建前で。ほんとはクラブでよく女の子と遊んでたって聞いてやきもちやいちゃったの。ごめんね」 「え、まじ……?」
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