ミッドナイトブルー

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   悠李の驚いた声に顔を上げると、視界が何かに覆われる。  目元に手をやると、悠李の手の甲が当たった。 「何? この手、離して。悠李の顔が見えない」 「だめ。今おれのこと見ないで」 「何で? やだ見たい」 「だめ」 「お願い」 「じゃあ、今日はもうちょっとだけ触ってもいい?」 「……? いいよ?」  悠李に引き寄せられ、そのまま目の前の首筋に顔を埋める。  嗅ぎなれた名前の知らない香水の匂いが鼻を掠め、悠李の熱い体温がわたしの身体を包み込んだ。  顔を上げると、滑らかなシルクでできたカーテンが、わたし達の周りをぐるりと取り囲んでいるような夜空が広がっている。  何となくこの世界にはわたし達だけしかいない気がして、少し笑みがこぼれた。 「ん?」 「ううん。幸せだなって思って」 「……おれも」  悠李の背中にそっと手を置くと、わたしの背中に回った腕にぎゅっと力が入る。  昼間の不安が嘘のように消えていく。 「わたし、悠李のこともっと知りたい」 「おれも彩月のこともっと知りたい」 「一緒だね」  わたしが笑うと、悠李はわたしの耳元に唇を寄せた。 「好き。どうしようもないくらい」 「わ、わたしも……好きだよ」  夜の匂いを乗せた冷たい風が勢いよく通り抜ける。  悠李の体温が温かくて、ちっとも寒くなかった。  頭上では夜色に輝くカーテンが広がり、わたし達はこの寒空の下でふたりきりだ。  静かな夜。  わたしの鼓動以外、とても静かな夜。  初めて悠李に抱きしめてもらったこの夜を、わたしはずっと忘れないだろう。  
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