とがった三日月

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   あの子は悠李のことが好きだ。  今もあの子と一緒にいるんだろう。  もしかすると、悠李のことが好きな女の子は他にもいるかもしれない。いたって一つも不思議じゃない。  写真を見た途端、胸の中にモヤモヤとした仄暗い感情が広がって、いてもたってもいられなくなった。  携帯電話の画面が着信画面に切り替わる。  悠李からだ。出るべきなんだろうけど、今出たら確実に可愛くない態度を取ってしまう。心の狭いやつだと思われたくない。  でも出たい。声が聞きたい。  そう思い始めたら数秒間の葛藤はあっさりと終わり、その場で通話ボタンを押した。 『寝てた?』 「ううん、ごめん。お風呂に入ってた。悠李は?」  わたしの葛藤をよそに、悠李の声は優しくて心地よくてびっくりするくらい普段通りだった。  電話での会話は慣れていなくて耳の奥がくすぐったい。 『部屋で一人でボーッとしてる』 「え、みんなは?」 『ご飯食べたあと部屋で遊んでたら身体が冷えたから、風呂入り直しに行った』 「悠李は行かなかったんだ。寒くない?」 『寒い』 「なら行けば良かったのに」 『この電話に出なかったら行こうと思ってた』 「え、」  悠李はわたしの電話を一時間も待っていてくれたらしい。  こんなに寒い夜に。皆と旅行に来ているのに。  わたしがくだらない嫉妬をして寝ようとしていた間も、悠李はずっと待ってくれていたのだ。 『嫌? こういうの』 「嫌なわけないじゃん。ごめんね、すぐに電話できなくて」 『そんなんで謝んなよ。こっちが勝手に待ってただけだから』 「ううん、待っててくれてたんでしょ。だって、あのね」 『ん?』 「悠李の心の隅っこに、ちょっとでもわたしを置いててくれて嬉しい」  少し間を置いて、悠李は呟くように答えた。 『……隅っこなんかじゃねぇよ』 「わたしの心にも、ずっと悠李がいるよ。離れてても、会えなくてもずっといるよ」
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