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『ただいま〜! おまえ結局風呂来なかったじゃん』
『お、誰と電話してんの?』
急に電話の向こう側が騒がしくなる。
友達が帰ってきたようだ。悠李の舌打ちの音が聞こえた。
『邪魔すんなよ』
『待って! 悠李、顔真っ赤じゃん! そんな顔初めて見た』
『電話の相手、誰? さっき言ってためっちゃ可愛い彼女?』
『うるせぇな、黙れよ』
可愛い、彼女?
悠李が友達の前でそんなことを言っていたなんて。
驚く間もなく、悠李は急いだ様子でわたしに告げた。
『ごめん、皆帰って来たからまたラインする』
「分かった、またね」
通話を切ると、わたしの部屋はとても静かだったことを思い出す。
その静かな部屋で、悠李との会話や悠李の友達が言っていた言葉を耳の奥に刻むようにうんと沈めた。
ベッドに潜り込み、部屋の電気を消したのと同時に携帯電話が震える。悠李からのラインだった。
『おれもずっと彩月のこと考えてるよ。おれのことだけ見てて』
思わず頬が緩む。
携帯電話をぎゅっと握りしめて窓の外に目をやると、とがった三日月が悠李の笑った顔に見えた。
三日月に向かって微笑んでみる。
つんと突き刺す空気が和らぎ、はちみつ色の唇がそっと揺れたような気がした。
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