56人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
状況が飲み込めないまま目に映ったのは、玄関の天井から降り注ぐオレンジのダウンライトの光。
その眩しい光を背に浴びた悠李に、力強く抱きしめられる。
どんな表情なのかは分からなかった。
「おれこそごめん。今日なんか変かも」
「気にしないで。当たり前だよ、体調悪いのに」
「それ、違うから」
「何が違うの?」
悠李の腕に力が入る。
どきどきと高鳴る鼓動が抑えられない。
恥ずかしい気持ちでいっぱいになりながら、控えめに腕を伸ばして抱きしめ返した。
「嫌なら引っ叩いて」
少し身体が離れたかと思えば、耳元に悠李の唇が触れる。
耳の縁をそっとなぞるようなキスに、わたしの鼓動がまた跳ね上がった。
「ん……」
悠李の名前を呼びたいのに、出てきたのは自分でも聞いたことがない声だった。
恥ずかしくて、でも悠李はキスをやめてくれなくて自然と目に涙が浮かぶ。
嫌じゃないけど、どうしたらいいのか分からない。
キスから逃れるように悠李の方に顔を向けると、薄茶色の瞳がわたしを捉えた。
二人を結ぶ、透明な視線。
けれど肌が焼け付くような一方的な熱が注がれ、ますますわたしは混乱した。
「彩月にそんな目で見られて、普通でいられるほど大人じゃねぇよ。おれは」
「ゆう……」
悠李の名前を呼ぶ唇を手のひらで覆われる。
その上から、悠李は優しいキスを落とした。
「次はこの手、退けていい?」
すぐそばで悠李の長い睫毛が揺れる。
かっと頬が熱くなり、嬉しさと恥ずかしさで頭の中はぐちゃぐちゃだった。
精一杯、何度も頷いて見せる。
悠李はわたしの頬に両手を添えて、切なげに微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!