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「あいつとどんな話した?」
悠李の声に、はっと息を呑む。
目頭にたまった涙を服の袖で拭いながら、すぐに返事をしようと頭を捻った。
でも、悠李の言う〈あいつ〉が誰のことなのかいまいち分からない。
「あいつって……誰?」
悠李は背中を向けたまま、いつもの綺麗な横顔を見せ冷たい声で言い放った。
「塚本」
「あ……」
そこでわたしは、お昼のカフェで塚本くんに会ったのを思い出した。
悠李と付き合ってから、塚本くんと会ったのは今日が初めてだ。
塚本くんは、わたしが悠李に片想いをしているのは薄々勘付いていたみたいだけれど、直接そのことについて話をしたことはない。
もしかすると、わたし達が付き合っているのも知らないかもしれない。
だからと言って、わざわざ報告するほどの仲でもなかった。
きっとわたしが話さなくても、どこかで耳に入るだろう。
今日もわたしの髪型が普段と違う、とか取り留めのない会話をしただけだ。
「特に悠李に話すような会話はしてないよ」
「言いたくねぇの?」
「そういうわけじゃないけど、悠李に話すような内容じゃないからわざわざ言わなくてもいいかなって」
悠李がその場でピタリと立ち止まる。
それに合わせて、わたしも足を止めた。
「知りたいんだよ、彩月のことは全部」
気が付けば悠李の腕の中にいた。
今までにないくらい力強く抱きしめられて、少し息苦しいくらいだ。
目の前の硬い胸に頭を押し付けられ、背中に回った腕にまたぎゅっと力が入る。
「ゆう、り」
「何で髪、あいつに触らせたの」
「そうだっけ……?」
「覚えてねぇの? まあ……覚えててもむかつくけど」
「全然覚えてない。髪型が似合ってるとは言われた、かも」
「喜んでた」
「だって嬉しいじゃん、褒められたら」
「おれが一番に褒めたかったのに」
悠李は、自分の頬をわたしの頬にすり寄せた。
すべすべとした肌が心地良く、どくどくと鼓動が早くなっていくのを嫌というほど感じた。
さっきまで、嫌われているのかもしれないと思っていたのが嘘みたいだ。
ドキドキする反面、ホッとする自分もいて思わず頬が緩む。
「悠李の肌、男の人っぽくなくて気持ちいいね」
「ガキだよ、おれは。自分でも分かってる。でも、彩月の前じゃかっこ付ける余裕なんかねぇんだよ」
切羽詰まった悠李の声が鼓膜を打つ。
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