ふたりでつむぐ

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   今日、初めて目を合わせたかもしれないと思ったのも束の間、悠李がサッと顔を背ける。  耳元のフープピアスがミラーボールの光に当てられてきらきらと光った。  悠李の横顔は鼻筋の通った、上品な曲線を描いていてとても綺麗だ。  表情の消えたこの冷たい横顔から、何を考えているのかいつも読み取ることができない。  ただ分かるのは、気まずい雰囲気が流れ始めているということだけだ。  それをどうにかしたくて、取り留めのない話題を口にする。 「わ、わたし、こういう場所って初めて来たよ。DJも初めて見た。か……かっこいいね」  悠李はイスの背にどかりともたれ、壁際のDJブースに視線を向けた。  DJブースの中では、キャップを被ったやんちゃそうな雰囲気の男の人が、次の曲を流し始めたところだった。 「そう? ああいうのがタイプ?」  むすっとした声が、ハンドクラップのきいたお洒落な音楽に混じって聞こえてくる。  戸惑ったわたしは、その場ですぐに否定した。 「そういう意味じゃないよ。難しそうじゃん、DJって。自分にできないことができるのがかっこいいって意味だよ」 「見慣れてないだけだろ。誰にでもできるよ」 「そうかなあ」 「じゃあ彩月の好きな曲、おれに教えて」 「え、何で?」 「何でも。いいから教えて」  どうして急にそんなことを聞くのかと疑問を抱くも、わたしは少し考えてから悠李の質問に答えた。 「Moonlightかな。ほら、わたし達が仲良くなってすぐの頃、悠李がよく聴いてたじゃん。それからわたしもはまっちゃってさ」 「分かった。待ってて」  悠李は席を立つと、まっすぐDJブースに向かった。   状況が掴めずそのまま眺めていると、中にいたDJに何か耳打ちをしている。  DJからヘッドフォンを受け取った悠李は、自分の頭に付けると片耳だけはずした状態でターンテーブルの前に立った。    手慣れた様子でターンテーブルを扱う悠李の姿はとても絵になる。  周りにいた女の子達が、一斉にきゃあきゃあと騒ぎ出した。  わたしも表情が変わらないように努力はしているものの、内心、女の子達と一緒に騒ぎたくて仕方がなかった。  
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