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悠李の姿に見惚れている間に、スムーズに曲が変わっていく。
DJブースの両側にある、大きなスピーカーから流れ始めたメロディーは、さっきわたしが悠李に伝えた曲の中で一番好きなサビの部分だった。
悠李は、遠くからわたしを眺めてふわりと柔らかな笑みを浮かべた。
やっぱりあの笑顔は赤ちゃんみたいだ。
わたしも笑みを返したつもりだけど、ちゃんと悠李に伝わっただろうか。
近くて遠い―――届きそうで届かない、悠李とわたしの距離。
なぜか視界がじわりと滲んだ。
DJブースの真上では、ミラーボールの丸い光が店内を隅々まで照らしている。
光を浴びた皆はいつもよりも輝いて見えた。
だからわたしにはすべてが眩しくて、ここは遠い世界だと思っていた。
けれど、居心地の悪さはいつの間にか消えている。
ミラーボールの光は、わたしにも当たっていたことに気が付いた。
「悠李、ありがとう」
―――わたしの小さな溜め息に気付いてくれて。
誰にも聞こえないように密かに呟く。
悠李がくれた幸せな時間を、わたしは噛み締めるように過ごした。
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