スノームーンとはちみつレモン

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「今日は凄く寒いね」  口を開けば白い息が舞う。  霞む地面の向こうに本音を投げ捨てた。  いつもこうして自分を誤魔化して来たし、これからもそうするつもりだ。  誤魔化すのは疲れることもあったけど、それはもう仕方がないと割り切るしかない。  そして、いずれこんなこともあったな、と笑える日が来ることを願うしか。 「飲む?」  相変わらず冷めた表情をした悠李の手には、さっき買ったはちみつレモンがある。  わたし達が仲良くなったきっかけも、このはちみつレモンだった。 「ありがとう。これほんと美味しいよね、大好き」  手渡されたはちみつレモンは、ふんわりと温かかった。 『これ、おれもすき』  悠李が初めて声をかけてくれた日を思い出しながら、ほんのりと酸味のあるジュースをこくりと飲み込む。  視線を上げると、黄金色に染まる明け方の空に、満月がうっすらと溶けていくところだった。 「あげるよ、それ」 「いいの? まだほとんど飲んでなかったけど」 「いいよ。好きなんだろ」 「悠李も好きじゃん」  悠李の返事を聞こうとしたところで、分かれ道まで来ていたことに気付く。  悠李は右へ、わたしは左へ。  二人きりの時間はここまでだ。短い夢だった。  名残惜しい気持ちを胸に押し込めて、「じゃあ」と手を上げる。 「家まで送ってくよ」 「それだと悠李が遠回りになるよ。うち、ここから結構歩くし」 「知ってる。帰り道がちょっと遠くなるくらい、いいよ」 「でも」 「分かった分かった。おれがいつもよりゆっくり歩いてたの気付かなかった?」 「全然分からなかったけどそれがどうしたの?」 「ほんとは甘いものも好きじゃないよ。朝まで飲むのも嫌い。遠回りも、ゆっくり歩くのも。彩月がいなかったら全部嫌い」 「え……?」  悠李がわたしの手首を力強く握る。 「男として見られてないのは分かってる。でも友達のままでいるのはやっぱり無理。だから今からおれの話、ちょっとだけ聞いて」  いつになく真剣な表情で、真っすぐわたしを見つめる悠李を前に胸が早鐘を打つ。 ―――もう少し、夢を見ていてもいいだろうか。  手の中にある満月色のはちみつレモンがぽちゃりと揺れた。 (夢を見ていたのは、彼も同じかもしれない)                                                        
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