綺麗な横顔

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綺麗な横顔

   初めてのデートで来た映画館は、思ったよりも人が少なかった。  ぐるりと辺りを見回して、慣れないカップルシートで落ち着かないまま、足元をキョロキョロと眺める。  今日のデート用に買ったヒールが頼りなく内側を向いていた。  視界の端にあるドリンクホルダーには、時間ギリギリで買ったオレンジジュースが一口も飲まずに放置されている。  多分、映画が終わるまで飲む気分にはなれないだろう。  甘ったるいポップコーンの匂いが漂う暗闇の中、隣に座った悠李にこっそりと目をやる。  スクリーンの光に淡く照らされた悠李の横顔は、やっぱり綺麗だった。  この横顔をずっと眺めてきた。  きっと、これからもそれは変わらない。  だって付き合えたとはいえ、いつ他の女の子に目移りしても不思議じゃないくらいに悠李は凄くもてている。  実際、悠李の周りにいる女の子は、彼女がいようが関係なく悠李を遊びに誘おうとしているらしい。  しかも、彼女は冴えないこのわたしだ。  誰がどう見たってお似合いのカップルとは程遠い。  それでも、こうして悠李の横顔をそばで眺めていると、わたしだけの悠李でいて欲しいと願ってしまう。  たとえ、それが叶わない願いだと分かっていても。 「ん、いる?」  ドリンクホルダーから炭酸ジュースを手に取った悠李は、ストローの先をわたしに向けた。  いらない、と首を横に振る。 「映画、面白い?」 「面白いよ。何で? 悠李は?」 「おれも一緒。彩月、こっちばっか見てるから」  悠李は軽く笑いながらスクリーンに視線を戻すと、ストローを口に加えた。  わたしが、ずっと悠李を見つめていたことに気付いていたらしい。  これは恥ずかしすぎる。  映画の内容なんて、ほとんど頭に入っていないこともバレていそうだ。 「ごめん。ほんとは映画全然観てない」 「面白くなかった? 出る?」  悠李は、わたしの様子を伺うように顔を傾けた。  気遣ってくれる悠李の前で、自分の気持ちをごまかすのは違う気がする。  わたしは俯いて、スカートの裾をぎゅっと握った。
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