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風邪で寝込んだある朝に
カーテンの隙間から差し込む光で、部屋がぼんやりと明るい。ケータイで時間を確認すれば、今は朝の五時で、うっすらと夜が明けた所らしかった。
電気を付けて重たい身体を起こす。身体がだるい。まだ、何となく熱っぽい。トイレに行って、またベッドに戻った。ふとベッドの上にぬいぐるみのような何かがあるのに気がついて目を凝らすと、其奴は微かに動いて此方を見た。もっちりとした謎の生物。おもちの様な質感に、短い手足が生えている。うるうるとした目が此方を見つめていた。謎の生物は二匹いた。
僕はファンタジー関連の本が大好きで、小説に限らず図鑑なんかもたくさん集めている。僕は謎の生物を見て、ふとその図鑑の一つに書かれていた「ぽてりまるむし」の事を思い出した。
ぽてりまるむしは誰かの化身。おもちのようにもちもちした体に短い手足が生えている生物で妖精のような存在だ。言葉は喋らないけれど性格は元の人間の性格そのままで、怒りっぽい人間のぽてりまるむしは短気でぷーぷー膨れているし、好奇心旺盛な人間のぽてりまるむしは全然じっとしていない。
僕は二匹の生物をじっと見つめた。此奴は図鑑に載っていた伝説の生き物、ぽてりまるむしに違いない。ファンタジー好きの僕は、伝説の生き物に出会えた嬉しさに舞い上がった。よくよく見れば、一匹はじっとして大人しく、もう一匹はチョロチョロと動き回っている。きっと大人しい方が僕のぽてりまるむしなんだろう。もっちりとしたもう一匹のぽてりまるむしは、短い手足を懸命に動かして、動き回っている。その動きは不安で焦っているようにも見えた。
(じゃあ、もう一匹は……?)
誰かのぽてりまるむし。それも僕と関わりの深い人間の。
迷子のぽてりまるむしはそわそわとベッドの上を動き回り、僕のぽてりまるむしが心配そうに見つめていた。
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