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組長の娘と呼ばないで
そして、約束の土曜日の朝。
ワクワクしているうちにあっという間に二日が過ぎてしまった。夏休みってどうしてこんなに早く時間が進むんだろう。
「忘れ物はない?」
「うん! 行ってきまーす!」
玄関を出ると、ちょうどたっくんと鉢合わせをした。黒いTシャツとジーンズのシンプルコーデだけど赤い髪とシルバーのネックレスが映えててかっこいい。
「たっくん! おはよう!」
「……おう」
たっくんの目の下には真っ黒なツキノワグマが二匹ぶら下がっている……ように見えた。
「どうしたの、たっくん? 顔色悪いけど……具合悪い?」
「何でもねえ……ちょっと眠れなかっただけだ」
たっくんは今にも地球を滅ぼしそうな恐ろしい顔つきをしていた。
眠れなくなるほど先輩のことが心配だったのかな?
「大丈夫だよ。私がいるからねっ」
「お前がいるから……やべえんだよ(心臓が)」
どういう意味だろう。
不思議に思いながらアパートの外階段を降りると、道路に横付けされていた黒いSUV車の運転席から青いグラサンをかけた灰士さんが顔を出した。
「迎えにきたぞ」
「えっ⁉︎ 灰士さん、かっこいい! どうしたんですか、この車!」
「親父の車を一台借りたんだ」
灰士さんといえばいつも大型バイクを乗り回しているイメージだったけど、こんなに立派な車まで運転できるなんて。すごく大人っぽくて素敵。
そして、たっくんと灰士さんが並ぶと本職感がすごい。最強のボディーガードを従えたヤクザの組長の娘になった気分。ナンパ男が近づこうものなら、
「うちのお嬢には指一本出させねえぞコラ!」
って、二人で拳銃乱射して砂浜を真っ赤に染め上げそう。
「死人は出さないでね?」
「ん? 安全運転しろっていうこと? 任しといてよ」
灰士さんは安心の笑顔で私たちを後部座席に促した。
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