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仁義なき戦い
保護猫カフェ『ゆるにゃんスペース』に移動すると、店の前で膨らませた浮き輪を持った海パンに上着を引っ掛けただけの金髪男子、可児くんがいた。
「おはようございまーす! 竜也さん、灰士さん、乙原さん!」
「仕上がってるね、可児くん。恥ずかしくない?」
「え? 何がっすか?」
浮き輪は現場で膨らませようよ。今から海に行きますって街中の人が気づいちゃってる。
「先輩は?」
「僕はここだ」
反対方向から声がかかった。
振り向くと、何泊旅行ですかと言いたくなるようなでっかいキャリーバックを転がした、これまたセレブなリゾート感丸出しの木更先輩がいた。
「彼と一緒にいるのが恥ずかしくて隠れていたんだけど、その間に三人も女子に声かけられて参っちゃったよ」
「恥ずかしかったのはこっちの方っす! この人やたら眩しいし、立ってるだけで目立つんで」
可児くんの言葉を無視して、トランクに荷物を詰め込んだ先輩が当たり前のように後部座席に乗り込んでくる。
「夢乃ちゃん、おはよう。今日も可愛いね」
「てめえ! 夢乃の隣に乗るんじゃねえ!」
私を挟んで、たっくんと先輩が睨み合う。
「夢乃、俺と席を交代しろ」
「だ、ダメだよたっくん! そんなことしたら、先輩の思う壺だから」
私もたっくんを先輩から守るために席は譲れない。
「先輩、助手席でナビをお願いできませんか?」
「そうだ。前に行け」
「住所だけナビに登録したら勝手に案内してくれるよ。僕が前に行く必要性はないな」
出かける前から血を見そうだよ。
「じゃあジャンケンで席決めしましょう! それが平和っす!」
可児くんの提案で、灰士さん以外の四人が表に出た。
今にも殺し合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気の中、真剣バトルが始まった。
「さーいしょーはグー! ジャーンケン……ポン!!」
「やったー! 俺の一人勝ちっす!」
可児くんがチョキでパーの私たちを無双し、彼は後部座席の真ん中に陣取った。
結局、その左右には私とたっくんが座り、助手席に先輩が乗ることで決着した。
「くそ……僕としたことが……」
先輩が悔しそうに助手席に乗る。
「可児くんの隣で良かった」
「俺も」
「えっ、そうっすか? そう言われると嬉しいっす!」
可児くんは嬉しそうにホクホクとした頬を緩ませた。
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