はたしじょう

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 このほろ苦い体験の翌日、また下駄箱に手紙が入っていた。今回は封をされていなかった。それどころか、自由帳の切れ端を二つ折りにしただけで、キラキラもしていないし、良い匂いもしない。中にはシンプルに「ほうかご、なかにわでまつ」とあった。ハートマークは無かったが、むしろハートマークが無いのは照れ隠しかもしれない、などと気持ちの悪い邪推をして浮ついた。  裏面をよく見ると、そこには平仮名で「はたしじょう」とあった。ハタシ、ジョウさん……。いや、ハタ、シジョウさんか……。そんな名前のクラスメートはいない。誰だろうか。隣のクラスだろうか。確か波田さんはいたがシジョウという名ではない。まさか上級生か……。見当がつかなかった。何はともあれ、相手の顔が分からないとその分妄想が捗るという物だ。とにかく放課後に中庭に行ってみれば良い。  その日も朝から気分が良かった。気分が良かったので、授業中は上の空である。また先生に怒られた。給食は焼きそばを五杯お代りして記録を塗り替えた。昼休みはその日も動物のようにキャッキャ、キャッキャとはしゃぎ回った。  昼休みを終えて五時間目に差し掛かった頃に、いったん冷静さを取り戻した。まだ浮かれてはいけない。突然キャンセルを言い渡される可能性はある。と理解しつつも悶々としていたら、あっという間に放課後である。胸の高鳴りを必死に押し殺して、こっそりと中庭に向かった。
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