はたしじょう

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 どれくらい待っただろうか。中庭にある鶏小屋の脇で五分、十分、十五分、それ以上かもしれないが、直立不動で待ち続けた。一分ですらまるで永遠のように感じるその様は、人生で初めて一日千秋の思いという表現がふさわしい状況だった。  期待に張り裂けそうな思いがいよいよ限界を迎えた頃に、鶏小屋を挟んで向こう側に人影がある事に気が付いた。いつから居たのか、同じクラスの男子が小屋の金網越しに見える。野球クラブで鍛えられたであろう逞しい体つきは、小学生にしては良く仕上がっていた。汗ばんだ浅黒い坊主頭が夕日を微かに反射しており、チョコボールのような光沢を放っていた。  彼も自分と同じように直立不動で誰かを待っている様子だったが、そこはかとなく殺気立っているように見えた。目つきが怖い。どことも分からない彼方のただ一点を見つめていた。  これは困った事になった。今にでも自分に好意を寄せているかもしれない異性が目の前に現れるのに、明らかに機嫌の悪そうなクラスメートが隣にいる。  色恋沙汰はクラスに絶対バレたくない。かといって、見るからに不機嫌な筋肉チョコボールにあっち行けとも言えない。先に彼がその場を去るという事に賭けるしかなかっただろう。どうすることも出来ずにいると 「この野郎! そこにいたか!」 筋肉チョコボールの方から怒号が聞こえた。こちらの方に向かって怒鳴っている。後ろを振り返ったが誰もいない。 「お前だよ! お前!」
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