あと一回だけ

1/1
前へ
/3ページ
次へ

あと一回だけ

「すごいな。なぁ、予備電源入れてもう一回やりたい」 「好きにしろ。あと一回だけだぞ」  茶髪の男が溜息をつくと、金髪の男は嬉しそうに愛莉をひっくり返した。  まるで人形を適当に転がすように。  首からノートパソコンにつながった電気配線が愛莉の顔にかかっても金髪の男は何も気にしていなかった。 「おい」  乱暴にするなと怒る大輝を無視し、金髪の男は愛莉のTシャツを捲る。  愛莉の白い肌を撫で、腰の少し上をパカッと開く。  金髪の男は四角いバッテリーをポケットから取り出し、簡単に交換した。 「……は?」  本当にアンドロイドだっていうのか?  そんな馬鹿な。    愛莉は普通の女の子だった。  手を握っても柔らかいし、いい匂いがするし、キスだってできる。  抱いたことだってある。  普通の女の子だ。  あんなところが開くはずがない。   「……君の記憶も操作するよ」  ごめんねと囁かれた瞬間、大輝の目の前は真っ暗になった。   「あれ? 俺なんでこんなところに?」  大学の近くだけれど、住んでいるマンションとは逆方向の歩道で大輝は首を傾げた。 「……痛っ」  目の前にはツヤツヤなストレートの黒髪の女性が座り込んでいる。  どうやらヒールが折れてしまったようだ。 「大丈夫?」  大輝が手を差し伸べると、小動物のような彼女は大きな目で大輝を見上げた。 「あっ、同じ大学の」 「あっ、えっと、小林さん……?」 「うん。小林愛莉」  愛莉は大輝の手を取り立ち上がった。 「俺、鈴木。鈴木大輝。ヒール折れちゃったね。接着剤の応急処置でいい?」  今日授業で使うから偶然持っているよと言う大輝に愛莉はありがとうと微笑んだ。 「予備バッテリの使用期限は一年間。また『好き』って感情が生まれるといいな」  今度は途中経過のデータも取ろうと笑う金髪の男に、茶髪の男は溜息をついた。 「そんなにうまくいくか?」  また同じ学習をするとは限らないんだぞと肩をすくめる茶髪の男。 「とりあえずこのデータをゆっくり解析したい」 「何かわかったら教えてくれ」  白衣の男達は再び出会いからやり直す二人を見届けるとノートパソコンを片手に静かにその場を去った。 「あのさ、俺と付き合わない?」  眼鏡の冴えない男に可愛い彼女が誕生する。    期限は一年間。  再び「さようなら」と言われる日まで。  END
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加