7人が本棚に入れています
本棚に追加
さようなら
「さようなら」
「は?」
可愛い笑顔で何の未練もなさそうに別れの言葉を言った愛莉の隣で、大輝は思わず間抜けな声を出した。
「な、何? 急に何?」
どういうこと? 頭が全然追いつかない大輝が愛莉の手を握ると、拒絶されるわけでもなくいつも通りに愛莉は手を握り返す。
ますます意味がわからない。
大輝が首を傾げると、愛莉はニッコリ微笑んだ。
愛莉は大学の同級生。
一年前から付き合い始めた俺の可愛い彼女だ。
ストレートの真っ黒な髪はツヤツヤで、目はくりっと大きく、守ってあげたい小動物タイプの小柄な愛莉と、細くて眼鏡の冴えない俺。
こんな可愛い愛莉と付き合えることが奇跡だけれど、いきなり「さようなら」は何なのだろうか?
理由が全く思い浮かばない。
冗談? ドッキリ?
結局よくわからないまま、いつものように食事をして愛莉のマンションまで送って行く。
「じゃ、また明日」
「さようなら」
いつも通りの挨拶をする大輝に愛莉が微笑んだ。
また「さようなら」だ。
いつもは「またね」なのに。
今日の愛莉は変だと思いながらも、また明日大学で会えるし気にしなくていいかと大輝は手を振って別れた。
可愛く手を振り返す愛莉。
ほら、やっぱりちょっと揶揄われただけだ。
大輝は肩をすくめると自分のマンションへ帰った。
いつも通り「おやすみ」のメッセージを送るとすぐに既読になる。
返事は「さようなら」だ。
「なんなんだよ、今日は。『さようなら記念日』か?」
よくわからないなと溜息をつきながら眠りにつく。
翌朝いつも通り「おはよう」と入れたメッセージはいつまで経っても既読にはならなかった。
大学に行っても愛莉の姿はない。
朝のメッセージはまだ未読。
急に「さようなら」を思い出した大輝は愛莉のマンションに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!