喧嘩

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「嘘?」 「そう。本当は弟の病院に  付き添ってるのはお母さん。 ごめんね、聖夜くん。嘘ついてて。 でも、わたしは絶対浮気なんかしてない。 これだけは信じて」 真綾の真剣な表情にモヤモヤとした感情を覚える。 どうして、彼氏の俺に嘘をつくんだろう。 信頼されてないのか。 そればかりが脳を支配する。 「分かった…」 「青木くんは勘違いをしてる。ホテルの前にいたのは通りすがっただけなの。 実は弟はパニック障害で人の多いところに 行くのが苦手なんだ。だから少しでも 慣れてもらうためにわたしがお出かけに 連れて行ってたんだよ」 そうか。 勘違いで良かった。 良かったけど 「彼氏より、弟の方が大事なの?」 つい口をついて出た言葉に 俺はしまったと口を覆った。 「…それって、どういう意味?」 真綾の口の端が引き攣った。 「違うんだ、真綾」 「何が違うの? 聖夜くんのこと、 おざなりにしてたことは謝る。 だけど、今の言葉理解できない」 「…ごめん」 「わたし、聖夜くんなら分かってくれると思った。 大変だねって言ってくれると思ってた。 弟の病気のことだって。 だけど、違うんだね」 「……それは自分勝手だろ。 僕はずっと真綾のために、我慢してきたんだぞ! 約束の無理強いもしなかった!」 抑えていたものが爆発した。 引き返すことはできない。 真綾の瞳から大粒の涙が溢れる。 違うんだ。こんなはずじゃなかったのに。 「真綾」 「もういい。もういいよ。 …聖夜くん。わたし達別れよう」 その言葉に時が止まったかのような錯覚を覚える。
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