病床にて

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病床にて

叶うのなら、あと一回だけ 君に会ってから死にたい。 僕はベッドから上半身を起こし、 薬の匂いが漂う真っ白な部屋から 日差しの差し込む窓の外を見つめる。 お気づきの方もいるとは思うが僕は病気だ。 脳に悪性の腫瘍ができ、気づいた頃には もう手の施しようがないほど腫瘍は 大きく成長していた。 もっと早くに病院へ行けば良かったが ブラック企業に入社したばかりの僕には そんな余裕は無かった。 僕は余命一週間らしい。 それを知って涙を見せる両親はいない。 父と母は僕が幼い頃に交通事故に 遭って死んでしまった。 同じ車に乗り合わせていたというのに なぜ僕だけが助かったのか 当時は自責の念に駆られたものだ。 病によって食欲も減り、食べたかと思うと酷い頭痛に 襲われ、戻すを繰り返していた。 その度にそれを処理するのは女性の看護師で 申し訳なかった。 死ぬ前に誰かに会えるのなら、 大学生の頃、付き合っていたあの子に 会いたい。 会って謝罪したい。 僕はあの子に対して酷いことを 言ってしまったのだから。
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