監禁生活3日目

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監禁生活3日目

「書ける……書けるわッ!」  今日も朝から執筆に勤しむ私は、一人きりの部屋で興奮の雄叫びをあげた。面白いくらい筆がノリに乗っていて、今ならノンストップで三百ページくらい書けるような気がする。  これもきっと監禁生活のおかげだろう。  ここに閉じこもっているだけで、決まった時間に美味しい食事が出てくるし、疲れたらふかふかのベッドでゴロゴロすればいい。そうしてリフレッシュできたら、また執筆作業に戻るのだ。  唯一面倒なのが、毎日必ずやって来るギルバート様の相手をしなければならないことだが、この生活が可能なのも彼のおかげだから仕方ない。パトロンには接待してあげなければ。 「でもちょっと出張とか行ってくれたらありがたいんだけどな〜」  つい願望を口に出すと、コンコンとノックの音が響いた。  まずい、ギルバート様に聞かれていなければいいけど……。  気まずさを隠して「どうぞ!」と返事をすると、扉を開けたのはギルバート様ではなく、彼の妹のエレン様だった。 「エレン様?」  彼女と会うのは監禁初日以来だ。  一体何の用だろうか。  ついきょとんとした顔で見つめていると、エレン様が遠慮がちに訪問の理由を明かした。 「あの、実は兄が急に一週間ほど出張に出かけることになり、代わりにわたくしがアルマ様のご様子を見るようにと言われましたので……」 「えっ、うそ! ラッキー!」 「え……? ラッキー……?」  エレン様から怪訝な表情で聞き返されて、うっかり心の声が漏れていたことに気づいた。  やばいやばい、私とギルバート様は相思相愛の恋人(という設定)なのだから、出張にラッキーなんて言ってはいけない。 「い、いえ、出張先はラッキード領かしらと思っただけですわ」 「そうでしたか。実際の出張先はコーエン領です」 「あ〜、なるほど〜」  とりあえず、うまく誤魔化せたようで安心する。  それにしても、一週間も出張に行ってくれるなんてなんたる幸運。エレン様はギルバート様みたいに長居はしないだろうから、相手をするのもさほど苦ではないはず。これでますます執筆が捗りそうだ。  この機会にいっぱい書き溜めるぞ!  そう気合いを入れていると、エレン様が「あら?」と可憐な仕草で細い首を傾げた。 「その書類はなんですか? アルマ様にお仕事のお願いはしていなかったはずですが……」  エレン様が私の原稿を指差して問う。  しまった! うっかり原稿をしまい忘れていた!  しかもちょうど際どいシーンを書いていたところだ。  もしこれを見られてしまったら……。  私は急いで原稿をしまおうと手を伸ばした。  しかし、慌てていたせいで机に置いていたインク瓶をひっくり返してしまう。 「あばばばばば!!!」  魂を込めて書き上げた原稿にインクを溢すわけにはいかない!  私は机の上に広げていた原稿を猛スピードで払い落とした。  インクの魔の手を逃れた原稿たちは、そのまま勢いよく舞い落ちていく。  あろうことか、エレン様のちょうど足元に。  そして、エレン様が白魚のようなたおやかな指で、私の妄想が詰まった原稿を拾い上げた。 「ぎゃああああ! 見ないでくださいエレン様!!!」  私の必死の絶叫も虚しく、エレン様はドンピシャで見られたくなかったページに目を落とし、顔を真っ赤にして悲鳴をあげた。 「きゃああああ! 何ですかこれは……!!!」  お、終わった……。  私の無事死亡が確定した瞬間であった……。
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