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すると、アリアの兄だと言う男性がこちらに近付いてきた。
「アリア、一体いつまでかかるんだ?」
「ごめん、お兄。今会えたからもう終わる。」
すると、兄はアリアの背後から顔を覗かせて僕をじっと見てきた。
「君がトイレに入っていくのを見た妹が、君がトイレから出てくるまで待つと言って動かなかったんだよ。一体何十分トイレに入ってたんだ?」
「す、すみません。体調が悪くて。」
僕は頭を下げながら、アリアが僕をずっと待っていてくれたことをようやく理解し、また鼓動が早くなっているのを感じた。
「あ、まぁ体調なら仕方ない。別にいいんだ。その間俺は用事を済ませられたからな。あ、俺はアリアの兄のケインだ。君の名は?」
「あ、僕は荒川洸太です。アリアさんと中学の時に同じクラスで。」
「…こうた…あ、君が洸太くんか。」
「僕のこと知ってるんですか?」
僕がアリアをチラ見すると、アリアは顔を赤くして目を逸らしていた。
「アリアが中学の時な、毎日毎日君の話ばっかりしててな。親が転勤族で俺とアリアは転校ばっかりでさ、どの学校行っても楽しく過ごせなかったんだよ。だけど、アリアは君のおかげで中学3年はずっと楽しそうだった。兄としても感謝してるよ。…アリア、俺は用事も済んだし先に帰るから洸太くんとゆっくりしてきな。」
兄は僕たちに手を振りながら爽やかにこの場から立ち去っていった。
「…アリアのお兄さん、かっこいいな。」
「…お兄、あんなに余計な話しなくていいのに。」
顔を真っ赤にしているアリアを見て、僕も顔を赤くした。
アリアは僕のことをずっと話してくれてたのか…。
「あの、洸太くん、ちょっと話さない?」
「…うん、勿論。」
僕は風邪で寝込んでいる母に心の中で謝り、アリアに連れられてショッピングモールの外のテラスに移動した。
「ここからの景色いいよね。駅と電車が見下ろせて、今日みたいに快晴の日は最高だね。」
「アリアは日本語が上手くなったよね。辿々しさが無くなった。」
「うん、小学生の時にイギリスから日本に来たから。お母さんね、この街で生まれたんだって。」
「あ、じゃあ転勤を何回かして、この街に戻ってきた感じなんだね。」
「そうなの。だから、お母さん毎日楽しそうなんだ。…座ろ。」
アリアはベンチに座ると、隣においでとベンチを叩いた。僕はアリアの隣に座った。中学の時に隣の席だったが、それよりも遥かに近い距離に僕はドキドキが止まらなかった。
「…洸太くん、ごめんなさい。」
「え?」
…何でいきなり謝ったんだ。
アリアの目には涙が溜まっていて、陽の光に照らされて輝いていた。
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