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いつもいつも
弘子はいつも、ゲームでも、外遊びでも、自分がいるチームや自分が負けると
「あと一回」
と、言う。それは弘子が勝つまで続くのだ。
弘子はクラスでも体も大きくいつもリーダー格なので誰かが早く帰りたいと思っても、みんなその「あと一回」に毎回付き合うことになる。
そんなある日。
早苗の家に遊びに来ていた弘子は、対戦ゲームをしていて早苗に負けた。
「あと一回」が来るぞ。と待ち構えていた早苗は弘子が「あと一回」と言うなり、
「わかったよ、あと一回だけね。次に弘子ちゃんが負けても、「もう一回」はないからね。いつもいつも弘子ちゃんずるいよ。」
いつもはおとなしく何度でも「あと一回」を聞いてくれていた早苗に突然言い返されて、弘子は機嫌を悪くした。
「そんなこと言うならもういいよ。早苗ちゃんとはもう遊ばない。」
ふくれて、ゲームを片付けもせずに弘子はそのまま家に帰ってしまった。
「あと一回くらいやってくれてもいいのに。」
ブツブツとまだ文句を言いながら帰途についた弘子の後を誰かがつけてきていた。
「何を「あと一回」なんだい?」
後ろから来た少し年が大きいだろう男子達が弘子に聞いてきた。
弘子は不気味に思って、何も言わずに逃げようとしたが、そのあたりでは有名な少し悪い男子達だった。
男子達はたまたま妹や弟が弘子と同じクラスだったりして、弘子の「あと一回」をみんなが嫌がっていることを知っていた。
男子達はいつも遊び場に使っている廃墟に弘子を全員で引っ張り込んでおもちゃにし始めた。
全員で弘子を囲んで、突き飛ばし続けるのだ。
男子達よりも少し体格の劣る弘子は突き飛ばされると転びそうになるが、男子達は円を小さくして、弘子を決して転ばせはしない。
「あと一回。」「あと一回。」「あと一回。」
みんなで声を出しながら弘子を突き回す。
「なぁ、「あと一回。」って便利だな。一人一回でも人数分は使えるもんな。でもお前は一人で何回も「あと一回」って言うんだろ?だったら俺達も「あと一回」を何回使ってももいいよなぁ。」
そう、男子の一人が言うと、弘子はまだ何度も付き回されるのだと信じ込み、とうとう泣き出した。
男子達は元の道まで弘子を送った。
「「あと一回」の意味、よく覚えた?」
そう言って、そのまま自分たちは夕方の道をさっきの廃墟まで帰って行った。
弘子は怖かったのと、男子に突き回されたので、体中が痛くて翌日は学校を休んだ。突き飛ばされた場所は青あざが広がっていた。
風呂場でそれをみた弘子の母は
「これ、どうしたの?」
と、聞いたが、自分が招いたことだったのに気づいていた弘子は転んだ。といいはった。
二日目には学校に行った弘子だが、余程懲りたのだろう。
もう二度と「あと一回」と言わなくなった。
【了】
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