もしこの恋が叶ったら、

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 「花を育てる係やりたい人、いますかー?」代表委員の男子がまた声を張り上げた。「はいっ!」2人の声が揃った。2人で相談して、「花を育てる係」に立候補することにした。でも、今の「はいっ!」っていう声にもう1人くらい混じっていたような、、、。正直に言って、この係は人気がない。去年の1学期は、僕1人で担当していたくらいだ。3人立候補するなんて史上初のことなんじゃないか?誰か立候補しそうな人はいないかと、教室を見回す。「あーーーーー!」僕はまた大声を出してしまっていた。また教室が静まり返ったが、数秒後、教室はまた笑いに包まれた。でも、僕には笑っている余裕はなかった。日菜乃ちゃんに誘われたことが嬉しすぎて、泉越さんとの約束をすっかり忘れていた。始業式の日、「弦くん、今年も一緒に『花を育てる係』やりませんか?」と誘われていたのだ。去年の2学期から一緒に仕事をしてきた仲なので、僕も快くOKした。泉越さん怒ってるかな。冷や汗が止まらない。「じゃあ、話し合いかじゃんけんでー」と代表委員の男子が口を開きかけた時、担任の平本先生が「3人でいいんじゃないか?」と言った。「こんな毎年余る係に3人も立候補してくれるなんて、先生嬉しすぎて泣いちゃうよ。」と平本先生は泣き真似をした。これもまた教室は一瞬静まり返ったが、数秒後、教室は笑いに包まれた。先生はみんなにウケて、どこか嬉しそうだった。  黒板に名前を書きに行く。その時に「泉越さんごめんね。」と言うと、「全然、大丈夫です。」パッチリした目をつぶって、ボブの髪と首を振って答えてくれた。僕はホッとして席についた。  係が決まって給食の時間になった。みんなが手洗場へと移動していく。でも、僕は真っ先に泉越さんの席に行った。「僕が忘れっぽいせいで迷惑かけてごめんね。本当に自分でも反省してるんだ。」と泉越さんにまた謝った。さっきはほんの数秒しか話せなかったし、もう一度ちゃんと謝った方がいいと思ったからだ。「全然、大丈夫です。」泉越さんは、さっきと全く同じ言葉を少し伏し目がちになって言った。傷ついているのかな?ショックをあまり顔に出さない泉越さんが、こんな表情をするのは珍しい。僕はただ驚いていた。しばらくすると、泉越さんは何事もなかったように僕に笑顔を向けて、「一緒に手を洗いに行きましょう!」と言って、手洗い場の方に歩き出した。突然のことに圧倒されながらも、「あ、うん。」と言って泉越さんについていく。その時、日菜乃ちゃんと友達が手洗い場から戻ってきた。「ひなのってまだソラのこと好きなの?」運悪くそんな会話が耳に入る。えっ、、、。日菜乃ちゃんは何も答えなかった。でも僕には答えがわかってしまった。日菜乃ちゃんは少し悲しげだけど、優しい表情をしていた。それは片想いをしている人の表情だった。僕はショックで立ち止まる。「弦くん!どうしたの!?」泉越さんの声が遠くで聞こえる。その瞬間、雨が降ってきた。近くの窓に打ちつける雨粒の音で気づいた。空が僕と一緒に泣いてくれているんだ。空のことは何も知らないのにふとそう思った。 第二章終わり
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