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「ママ、今夜はこれね」
布団に入る前に娘が差し出した一冊の絵本。それを私は笑顔で受け取った。
最近娘は眠る前に、私に絵本を読んでとせがむようになった。
物語の読み聞かせは情操教育的に悪いことではない。だから快く引き受けているけれど、実はこれが結構しんどい。
家事育児に追われてもうクタクタ。その状態で娘の隣に横たわり、相手が眠るまで本を読み聞かせる…気を抜くと、こっちがうっかり寝てしまいそう。
それでも可愛い娘のリクエストだからと、今夜も、眠い目を無理矢理開いて絵本を読む。…ただ、時々意識が朦朧としてしまい、そのたび続きをせがむ声に起こされるのだけれど。
「ねぇ、続き読んで」
そう言われ、私は閉じていた目を見開いた。
慌てて読みかけの行に視線を向け、続きを口にする。その時、添い寝する娘の様子を窺った私は自分の目を疑った。
どこからどう見ても娘は熟睡しているではないか。
でも今、確かに絵本の続きを読んでとせがむ声がした。
混乱のせいで言葉が止まる。すると、娘の少し向こうから、さきっは気づかなかったが、聞いたことのない声が聞こえてきた。
「絵本、読んで」
部屋に明かりはついているのに、どうしてか、娘より向こうは照明などないかのように暗く、そこに何がいるのかは判らない。というか、たとえはっきり見えたとしても、『それ』をきちんと見たいとは思わないけれど。
娘の横に存在する『なにか』。それがせがむまま、私は絵本の続きを口にした。
もしここで中断したら、そこにいる『なにか』は、娘と私に危害を加えてくるかもしれない。だったらリクエスト通り、最後まで絵本を読み切ろう。
ページが進む。物語が終わりに近づく。これを読み終えたら、そこの『なにか』はいなくなってくれるかな。いいえ、いなくなってくれないと困るから、必ず消えて。いなくなって。
ただそれだけを願いながら、私は絵本の最後のページを読み切った。
絵本を読んで…完
。
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