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出会い
1
神奈川県松田町にある私立花岡学園高校。
今年もたくさんの新一年生を迎えた。
小峰梨沙もその一人だった。
女の子なのに鉄道が好きで歌が好きという一風変わった子だった。
1年3組、選抜進学クラス。12クラスあるうちの3番目に勉強ができるクラスが梨沙のクラスだった。
今日は入学式から3日経っていた。
下駄箱から3階のクラスに行く手前で、とあるメガネをかけた男の子に「あの」と声をかけられた。
「何でしょうか?」
「僕は1年12組の大桃涼太といいます。あの、バックに鉄道のキーホルダーつけてませんでしたか?」
「あ、はい。このパスモケースのことですか?」
梨沙はよくわからないながらに、自分の鞄の京浜東北線のパスモケースを見せた。
「僕は鉄道好きなんで、女子で鉄道好きな人っていなかったから入学式のときからつい気になって」
「あの、鉄道研究部の方ですか?」
鉄道研究部の勧誘に違いないと思った。
「いえ、まだ入ってはないんですけど、君のことが気になって。これ、携帯番号なんだけど」
大桃くんは自分の携帯番号を書いた紙を梨沙に渡した。
「よかったら、仲良くしてくれないかなあ」
「あ、うん。私で良ければ」
「ありがとう。連絡待ってるよ。じゃあね」
大桃くんは去っていった。
うちの3組のクラスはガラスばりになってるから、こちらの様子が丸見えだった。
友達の水島理恵ちゃんやクラスメイトがチラッとこちらを伺っているのがわかった。
私もしかして、モテ期!?
2
「大桃?知らないな」
私の席の前に座っている友達の佐久間穂乃香が腕組みをしながら言った。
「ももちさ、それってストーカーじゃない?」
とは酒井瑠奈のセリフ。ちなみに、ももち、とは梨沙の愛称だ。
「鉄道のキーホルダーが気になって来たなんてね」
木曽まおみもうなずく。
「やっぱりわからないよね、私に突然話しかけた理由なんて」
「面識はないんでしょ?」
穂乃香が聞く。
「全然ない。今日初めて会った」
「じゃあストーカーかもね。ももち気をつけなよ?」
「うん、まあ」
でもストーカーっていう感じじゃなかったけどなあと梨沙は思った。もしかしたら私の知らないうちに会ってたのかもしれないし。それに真面目そうだったし。
お昼休み。
仲良し4人組で食べていると、教室の外をうろうろしている男子が一人。ガラス越しにこちらの様子を伺っている。よく見ると大桃だった。梨沙と目が合うと少し照れ笑いをした。
「あ、あれは」
「ん、何?あれって!あれがもしかしたら大桃?ストーカーかよ」
穂乃香が言う。
「ももち、出待ちされてるね」
「うん、まるでアイドルの出待ちだね」
瑠奈もまおみも言う。
他の生徒も気づいてこちらへ寄ってきた。一人の生徒が
「あれは大桃くんだよ。私中学で同じクラスだったんだ」
と言って教室の外に向かって「大桃くーん、どうしたの?」と叫んだ。そしたら恥ずかしくなったのか、階段の踊り場まで去っていってしまった。
「私、行ってくる」
梨沙はお弁当を片付けて、階段の踊り場へと向かった。
「ごめんね、なんか待ってたみたいで」
「ああ、大丈夫だよ。みんなに見られたっておかしくないくらい俺、不審なかんじだったし」
「そんなことはないと思うけど。ところでどうしたの?」
「小峰さんのことについて話に来たんだ」
二人は踊り場で話し始めた。
「君にとっては初めましてかもしれないけど、俺にとってはそうじゃないんだ。去年の中学の夏休みのときにここの高校のオープンスクールがあったでしょ?あのとき鉄道研究部に行こうとしてる君を見かけた。リュックに今の鞄にさげてる京浜東北線のパスモケースをさげてて女子なのに鉄道が好きなんだなあって思った」
「それで私のことを知ってたんだね」
「うん。それから2月にクラス編成試験があったでしょ?あのとき同じ教室で試験を受けてたんだよ」
「え?そうだったの?」
「パスモケースで例の子だってすぐわかった」
「そんなに会ってたなんて…」
正直梨沙は大桃のことは知らなかった。でも大桃は梨沙のことを半年以上前から知ってたのだ。
「ところで小峰さんはどこに住んでるの?」
「ああ、秦野だよ。電車通学なんだ」
「そっか。俺は開成。近いから自転車通学だよ」
そこまで話したところでチャイムが鳴った。
「じゃあまた」
「うん、連絡待ってるから」
不思議な関係が生まれようとしていた。
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