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「富井ー!」
自分の名字を呼ばれて陸は振り返った。
駅の階段から降りてくる梨沙は傘を持っていなかった。
「傘入れてちょ!」
「なんでお前傘持ってないんだよ」
「やー、家出るときは降ってなかったから」
梨沙は何だか嬉しそうだ。
「なに喜んでんだよ」
「え?喜んでるように見える?」
「また、彼氏?」
「そう!涼太とね、下駄箱で待ち合わせしてるんだー!いつもそうしてるの!」
「ふーん」
陸は拗ねたように下を向いた。
「で?彼氏以外の男の傘に入れてもらうなんていいのかよ」
「え!だって富井と私は友達じゃん!大丈夫だよ!」
友達。その言葉がまた陸の心を痛めさせた。
「あ、雨上がってきたみたい!あ!虹だ!富井、見て!虹だよ!なにかいいことあるかも!」
「虹ね」
たしかに雨上がりだから虹が出るのは普通のことだ。
「もう傘入れてもらわなくて大丈夫だから!」
「ちょ、お前…!」
気がつけば雨は上がっていた。そして、そんなに歩いた気がしてないのに、学校の下駄箱についていた。
梨沙が下駄箱で待っていた涼太とじゃれ合っている。
俺はなんて不幸な男なのだろう。
雨上がりにこんな風景を見せつけられて。
こんなに梨沙が好きなのに、俺の心は晴れない。
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