それは間違いから始まった

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春日野高校に英語教師として着任して2年。 独り身というだけの理由で、バスケ部の顧問をやらされることになった。 前任が転勤になったせいだ。 とりたてて何か用事があるわけではなかったけれど、休みという休みが全て練習や試合でつぶれるのは全く面白くない。 それでも、教師の端くれだからなのか、試合では生徒たちに勝たせてやりたいとか思ってしまう自分もいて、指導講習会に参加したりなんかして、更に休みを減らしてしまっている。 大学時代のツレがせっかく誘ってくれた合コンも散々な結果に終わった。 仕方がないだろ? 部活がない日に授業のプリント作ったり小テストの採点やってるから、遊びに行く時間なんて皆無なんだよ。 ホント、教師なんてブラック以外の何物でもない…… 前任が仲の良かったよしみで、うちの春日野高校と、山城高校、槻瀬(つきせ)高校の3校で日曜日に練習試合をすることになった。 生徒同士は何回か会ったことがあるようだったけれど、こっちは初見でただただ緊張していた。 山城高校の顧問も、槻瀬高校の顧問も、審判員のライセンスを持っていたりするけれど、自分は何も持っていないばかりか、スコアの書き方もあやしい。 せめて挨拶だけでもきちんとしようと、槻瀬高校のところに顔を出した時、彼女に出会った…… 青い上下のジャージ姿に、短い髪、化粧っけはないのに、長いまつげに縁どられた二重の大きな目が印象的な、きれいな女性(ひと)だった。 「春日野高校の広海です。今日はよろしくお願いします」 「よろしくお願いします」 黙っていると「美人タイプ」なのに、笑った顔はあどけなくてかわいい。 初めてバスケ部の顧問になったことを喜んだ。 「センセー、コンビニ行くけど何かいる?」 「いらないっ」 生徒にちょっと幼い話し方をしているのもまたかわいかった。
その横でずっとスマホを見ている茶髪のマネージャーの子より、彼女の方がよっぽどかわいい。 「あの、名前を……」 「あー! ダメ! 名前聞くの禁止!」 槻瀬高校の顧問の大河内先生に注意をされてしまう。 なんで名前聞くの禁止? 「こいつに用がある時は俺通して」 大河内先生は50歳を超えてるし、彼女に気があるとかそういうのではなさそうだから、単純にオレみたいな邪な考えで近づいて来るやつを牽制しているようだった。 山城高校の顧問の先生と彼女が仲良さそうに話しているのはいいのかよ? と思ったら、彼は妻帯者で愛妻家ということだった。 もう少し、時間をかけて仲良くなろう、そう心に決めた。 直接名前を聞くことはできなかったけれど、周りの会話から「結城」という名字だということがわかった。 思えばこれが一目ぼれってやつなのかもしれない。 この年になってそんなことがあるなんて思ってもいなかった。 バスケが、いや対戦相手限定でバスケの練習試合が楽しみになった。
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