それは間違いから始まった

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インターハイが近づくと、強豪校の槻瀬高校とは練習試合をすることがなくなった。うちのような弱い高校と練習試合をしても仕方がないからなんだろうけど、それで彼女とは会えなくなってしまった。 なぜかいつも邪魔(主に大河内先生)が入って誘えない。 もしかしてこれが運命ってやつなんだろうか? だったら、あと一回、あと一回だけ誘ってダメだったらあきらめよう。 今度は大河内先生が何と言おうと押し切るんだ。 そう自分に言い聞かせて、次の練習試合が出来る日を待った。 夏休みが終わり、久々に山城高校と槻瀬高校と練習試合をする機会がやってきて、早速彼女の姿を探した。 けれども、槻瀬高校のベンチには茶髪のマネしかいない。 「あの、結城さんは?」 恐る恐る大河内先生に聞いた。 「結城? 辞めたよ」 「えっ? そうなんですか!」 「あいついなくなってから仕事増えて大変になったわ。今まで細かい仕事全部やってくれてたから楽だったのになぁ」 「学校辞められたんですか?」 「学校? 辞めてないよ。辞めたのは勉強があるから」 「勉強って何の勉強ですか?」 「何って、受験勉強」 「受験?」 「さっきから何言ってんの?」 そこで、山城高校の先生が会話に入ってきた。 「あの、さっきからお2人の会話を聞いていて気がついたんですけど、もしかして広海先生って、結城さんのこと『先生』って思ってました?」 「違うんですか? 副顧問の先生じゃないんですか?」 「副顧問は、そこのベンチでスマホを見てる福島先生ですよ。結城さんはマネージャーさんです」 「で、でも、生徒が『センセー』って呼んでませんでしたか?」 「ああ、あれは、卒業アルバム用の写真撮るのに来たカメラマンが、結城を先生と間違えて『センセーもう少し右に』とか言ったのを、生徒がからかって言うようになったんだよ」 「前に辺鄙な所にあるスポーツセンターで練習した時、どうやって来たのか聞いたら『車で』って……」 「親が送って来たんだろ」 大河内先生は面白そうに笑った。 「……本当にですか?」 「まぁ、あいつ大人っぽい顔してるし、しっかりしてるけど、生徒と同じブルーのジャージ着てたし、普通間違わないだろ?」 あ……そう言えば…… 「それにジャージに思いっきり名前書いてあったろ?」 背中に『TSUKI』とローマ字が書かれたジャージを着ていた…… 「『TSUKI』って、槻瀬高校の『TSUKI』なんじゃ?」 「違うよ。結城月佳の『TSUKI』だよ」 じゃあ、大河内先生が、何でも「ダメ」って言ってたのは…… 「広海先生、結城のこと先生だと思ってちょっかい出してたんですか?」 「……はい」 「ははっ! 堂々と生徒をナンパしてるんだと思ってましたよ!」 そんなことを言われて、初めて「顔から火が出る」という慣用句の使い道を知った。 「もっと早く気がつけば良かった! まさか間違える人がいるなんて思ってもいなかったから! すみませんねぇ」 「いえ、申し訳ありませんでした」 その日は一日中、先生にからかわれて過ごした。 高校3年生だったのか…… 進展なんてなくて良かった…… 「あと一回」なんてあったら、教師をクビになるところだった……
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