それは間違いから始まった

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次の年の春、新しく赴任してきた先生が、中高大とバスケ経験者だったことで、役立たずだった僕はお役御免となった。 それで、ようやく仕事帰りに友人達と遊び行く余裕ができた。 <次の土曜のオープン戦 チケットあるけど行く?> 友人の坂巻からのメッセージだった。 <絶対行く!> もちろん即レスした。 ずっとバスケより野球が好きだったんだ。 去年は全く行く暇がなかったけれど、これまで我慢してきた分、今年はチケットが手に入れば行けるだけ行ってやる。 試合当日は、好きな選手のユニフォームを着て、小さな傘を持って球場に行った。 「広海と野球来るの久しぶりな気がするわ」 「誘ってくれてありがとう」 「今年から余裕できたって言ってたの思い出したんだ。野球好きだったろ? ちょうど取引先からチケットもらったからさ」 「お礼にビール奢るよ」 「無料(タダ)でもらったチケットなのに?」 そんな話をしながら、試合前から飲んでしまおうと、ビールの売り子に声をかけた。 「ビールください」 「お幾つですか?」 「2杯」 「1,600円です」 ビールを注いでくれている売り子の顔を初めて間近で見た。 嘘だろ…… 胸元の名札を確認すると、『1年目です! つきか』と書かれていた。 1杯目を渡されたのに気づかず、まじまじと顔を見ていた。 「どうぞ」 その声で我に返る。 「もしかして結城さん?」 名前を呼ぶと、にっこり笑ってくれた。 「広海先生ですよね? いつ気がつくかなーって、思ってました」 結城さんは2杯目のビールを注ぎながら話し続けた。 「先生が気づかなかったらこっちから声をかけようと思ってたんですよ」 それは……好意的に受け取っていいんだろうか? 「野球お好きなんですね」 「実はバスケより」 「わたしも同じです。また声かけてくださいね。どうぞ」 「どうも」 ビールを受け取って、財布から2,000円を渡した。 「400円のお釣りです」 お釣りを財布に戻すと、彼女が会釈してから階段を上っていくのを見ていた。 「知り合い?」 「他校のバスケ部のマネやってた子。練習試合で何回か会ったことがあるんだけど、ここで会うとは思わなかった」 「へぇ。かわいい子じゃん」 「そうなんだ。かわいいんだ」 上の空で答えた。 「良かったじゃん。これも出会いだろ?」 「えっ? いや、でも生徒だから」 「お前のとこの?」 「違う」 「じゃあ、関係ないんじゃね? ビール売ってるってことは大学生だろ? 大学生と社会人の出会いって、何も問題ないじゃん」 そうなんだろうか? もう、何の問題もない……んだよな? あと1回……いや、あと2回……あと…… 回数なんて関係ない。 とりあえず、横を通るたびにビールを買うことにする。 END
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