3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
Gがその場から立ち去ってからも、しばらく連絡員はその席に留まっていた。
半顔の仮面を頭の上に乗せ、傍目からはぼんやりとしているように見える。
やがて、重力の無い足どりが音もなく、彼の背後に近付いてきた。
キムはふっともたれたカウチの背から見上げた。
するとそこには赤の道化師がぬっとカードを手にしている。
「抜けって?」
道化師はバネ人形のような動作でうなづく。
彼は言われた通りにカードを引いた。そして一瞬じっとそれを見ると、ゆっくりと裏返した。
「このカードは変わってるな。女王様が蒼いぜ」
すっと、芝居がかった手つきで、道化師はそのカードを取り戻した。
だが何処へ隠したのか、それはすぐに見えなくなる。
キムはその様子を見て笑った。
「相変わらずいい腕だ。そっちを本業にしたらどう?」
それを聞くと、道化師は大げさに腕を広げ、背中から青年の首に腕を巻き付けた。
ほとんど頬をすりつけるくらいの勢いは、端から見れば実に微笑ましい光景ではあった。
だが。
「何だよ」
「あれはどうだ?」
道化師の唇もまた、殆ど動いてはいなかった。
「上々」
くくく、と彼の背中で、笑い声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!