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宇宙に植民星が多々生まれ、またその中で多々の国家が生まれ、消え、混乱を極め、そしてようやくある一つの統一国家ができたという――
こんな世知辛い世の中で、好きでこんな悠長なことをしようという人種の考えなど彼には全く理解できなかった。
とは言え、彼はその時点では、そこに居なくてはならなかった。繰り返すが彼の本意ではない。それが彼に下された命令だったからだ。
「綺麗なお兄さん、お飲物は如何です?」
赤と紅と朱を取り混ぜたエナメルの衣装に身を包んだ道化師が、重さを感じさせない足どりで近寄ると、彼に幾つかの色のグラスを勧める。
彼は道化師の服にほんの数滴青を垂らした様な色合いのグラスを手にした。
「学生さんですかい? お若いの」
「そうだ」
彼はグラスを口にしながらそう答えた。
「帝立大学の学生だ」
「そう見えますよ」
道化師は声を立てずに笑う。彼はつられて笑った。
まあ嘘ではない。彼の籍は確かにまだ学生のままだった。少なくとも自分からそれまで居た学校を除籍した覚えはない。
学生という立場は曖昧である。
授業の場に必ず居るという保証はなくとも、学生としては存在している。一度名乗ってしまえば、ある程度の年齢の人間なら、それで通すこともできる。まあ有利な身分と言えば言えるだろう。
とは言え、一年程前から、彼は実質的にはその場を離れていた。一つの集団に身を投じていたのだ。
彼はとある反帝国組織に組みするテロリストだった。
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