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「あ、ごめーん!」
肩に衝撃を受け、Gは手にしたグラスを揺らせてしまった。
ふっと中の液体が跳ねて、彼の白い軍服に降りかかる。血よりやや優しい色あいの赤が、玉になり、やがて吸い込まれていった。
「大変だ! ちょっとじっとしててくれよ」
けたたましい声に顔を上げると、羽根を付けた大きな仮面がぬっと現れた。彼は驚いた。その半顔の仮面にではない。ここは仮装舞踏会なのだ。どんな者が居ても決しておかしくはない。おかしいのは、別の所にあった。
気配が感じられなかったのだ。
仮面の青年は、その下から腰まで届くくらいの、長い栗色の髪を流していた。
やや崩した感じの黒い礼服のポケットからハンカチを取り出すと、近くにあったミネラルウォーターのびんを取り、その中身を空けた。
「すぐに何とかすれば、染みにはならないと思うけど」
染みの上を軽く叩きながら、青年は低くも高くもない早口で言った。処置が速かったためか、赤の染みはすぐに見えなくなった。
「ありがとう。もういいですよ」
彼は軽く制する。低く、軽く甘い声だった。
「いや本当に悪かった。慌ててたからさあ」
そう言って青年は、握手しようとして手を出した。
謝罪に伴う握手は、こういったパーティに出る有閑階層の人間にとって日常の礼儀。
決まり事だ。
だが、濡らしたハンカチのせいで、手袋が湿っているのに気付いたのか、青年は慌てて左手からそれを外した。
Gはそれに応じて左手を出した。
次の瞬間、手に軽い電気的衝撃が走った。
彼は軽く右の眉を上げた。
覚えのある衝撃。
それは、構成員同士の判別に使われる相互接触式信号だった。
「では君が」
長い髪の青年は、にっと笑った。
「キムだ。ようこそ惑星アルティメットへ」
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