第3話 眠れる惑星「泡」の件

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 集団「MM」。  この名前の本当の意味はGも知らないが、構成員達の中で推測されるものはあった。  誰が言い出したものかは既に時間と空間の海の中に沈み込み、決して浮かび上がることはないが、言葉は残った。  彼らは、集団の活動の理念を「悪意」と呼んだ。そしてそれを、実際の行動―――結果としてそれは戦闘行為に発展することが多い――― に移した時、「悪意」は「悲劇」となる。  この二つの言葉の頭文字はどちらもM。だから―――  だがその答が上から来ることは無い。 「お前先日の惑星『泡』の事件を覚えている?」 「噛んでいた?」 「無論」  キムは当然、と言いたげにうなづく。  Gは直接関わった訳ではないが、その惑星「泡」における騒乱の話は聞いていた。  「完全なる辺境」とまではいかない星域に、さほどの感慨もなくぽつねんと置かれているような惑星「泡」は、豊富な鉱物源だけによって潤う小さな惑星だった。  自治府は最もお得意先である帝都本星に忠実だった――― その時までは。  何が原因であったかは判らない。  だが確かにそれは起こったのだ。  大人しい「泡」の市民達はその日、怒れる人民と化した。  さすがに帝都側も見過ごしてはおけず、そこに最寄りの惑星から軍が派遣され、鎮圧を試みた。  だが、交差する情報の末に到着の遅れた軍が見たものは、眠る市民の姿だった。  死んではいない。  だが意識を取り戻す者もいない。  居住区の透明な半球の中で市民は、家の中、柔らかいベッドの中から、道端の側溝の上に至るまで、老若男女、貧富の差も全て蹴散らし皆平等に、誰一人として目を開けてはいなかった。 「あれにうちが噛んでいること自体はまあいいんだよ。ただ方法がまずかったのさ」  キムは肩をすくめる。 「方法が?」 「FMN種の生物兵器をばらまいた」 「FMN? それって生物、というのはやや違うんじゃないか?」 「まあね… でも極小生体機械までいっちゃうと、そのへんの定義は曖昧だろ?それにどっちにしろ、あれは有効だけど、ルートが限られている。まあさ、今の所我々が原因とは公にはされていないけど――― どうやらその文書には、その時の様子が一部始終書かれているらしいんだ」 「だけどそんな文書がよく存在したな」 「まあね。まあ文書、と言うのは差し当たって上手い言い方がないからであってさ。本当は紙だかディスクだか、はたまたもっと別のものなのか――― とにかく記録した『何か』。それを見つけだし、情報を引き出してしまうか、破壊するのがお前に中央が下した命なの」 「なる程ね」  彼はゆったりとうなづいた。訓練とは無関係の優雅さがその何気ない仕草にはあった。 「用意された身分は?」 「避暑の学生だろう? だったらアルバイトくらいしてもおかしくはないな。アルバイトは裕福な学生の特権だ」 「それはそうだ」  くく、とキムは彼に向かって笑いかける。  やや苦笑いをそれに返すと、Gはするりと彼の腕の中から抜けだす。  キムは急に口を大きく開け、オーヴァアクション気味に手を広げた。 「おやもう行ってしまうのかい?」 「そうなんだよ。そのアルバイト先から呼ばれていたことを思い出してね」  負けず劣らずの演劇がかった声で、なおかつクールに彼は答えた。 「名残惜しいなあ。また今度会った時にはもう少し打ち解けてくれてもいいんじゃないの?」 「考えとくよ」  そして彼は再び古典演劇的な優雅さで手を上げた。
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