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第1話 何はともあれ、彼は目を引いた。
その彼は目を引いた。
会場に集まる紳士淑女、またはそうでない者も含め、彼を視界に入れたが最後、目を離せないことに気付く。
皆一様にため息をつき、嗚呼あのような者もこの世に居たのだと神に感謝するのだ。
無論その際、それを目にした者の普段の生活に信仰が定着しているかどうかなど大した問題ではない。
端正な顔と、それを包むさらりと流れる長い黒髪。飛び抜けて長身という訳ではないが、均整のとれた体つき。そしてそれを包む白と黒を基調にした衣装。
軍服だった。
少なくともそう見えた。
だがそれが何処のものであるか、知っている者はその会場には存在しなかった。
何処の方かしら?
令嬢達は囁き合う。
きっと名のある所の方に違いない。
紳士達は噂する。
だが、当の本人はそんな周囲の視線を決して好ましくは思っていなかった。
そこに居たのは、決して彼の本意ではなかったから。
仮装舞踏会。
旧時代の残物、と彼は軽蔑と共に口にする。
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