雨の国

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 ハルタくんは、雨が降るたびに泣いている。  六月、二年生が始まって少しした日に転校生としてやってきた彼は、ちょっとぷっくりとした身体(からだ)つきの、マスコットキャラクターみたいな男の子。わたしはひと目で「なかよくなりたい」と思ったんだけど、ヨシコちゃんやアカネちゃんは、特に興味がなさそうだった。他の男の子たちだってそう。だれも、ハルタくんに話しかける人はいない。みんなの反応は悲しかったけれど、その一方で、わたしだけが彼のいちばんの友達になれるかもしれないって、ウキウキもしていた。 「ハルタくん、一緒にあそぼう」  転校初日にハルタくんにそう声をかけると、彼は水をもらったお花みたいに、ぱっと表情が明るくなった。 「いいの?」 「もちろん! なにして遊ぶ? なわとびでも、追いかけっこでも、サッカーでも、なんでもいいよ。でもいちばん好きなのは、本を読むこと」 「本? それじゃ、一緒に遊べないよ」 「うーん。なら、なわとびにする? 二重跳び、練習中なの」 「それなら僕もできる。なわとびにしよう」  本当はわたし、図書室で本を読むのがいちばん好きなんだけれど、ハルタくんの言う通り、確かに読書はふたりでするものじゃないって気づいた。 「二重跳び、僕できるよ。見てて」  運動場でなわとびを持ち寄って、ふたりしてぴょんぴょんジャンプした。ぐるるん、ぐるるん、と風を切る音が、ハルタくんの縄から聞こえてくる。完璧な二重跳びだ。わたしは、わっと歓声を上げた。 「すごいすごい! そんなにたくさん跳べる人、初めて見た」 「だろ? 北海道にいたとき、大会で優勝したことあるんだ」 「へえ! だから上手なんだね」  ハルタくんは得意げに鼻の下を擦ると、その後もずっと二重跳びを跳び続けた。わたしも負けじと跳んでいたのだけれど、やっぱり縄が足に引っかかって上手くいかない。昼休みが終わる頃、ようやく一回跳べるようになったとき、ポツポツと雨が降り始めた。
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