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「あ、雨——」
水滴が頭の上に落ちて、空を見上げる。一面に広がるどんよりとした雲が、いつのまにか校庭全部をおおっていた。
「うわ、雨いやだ」
わたしよりも先に、ハルタくんが縄を放り投げて、校舎の方に逃げていく。わたしは、彼の縄を拾って、自分の縄と一緒に手に持った。校舎にたどり着いたとき、ハルタくんはどういうわけか、涙を流していた。
「どうしたの?」
心配になって聞く。
「雨が……雨、だいきらいなんだ……」
ハルタくんが震える声で雨が嫌いというから、わたしはびっくりしてしまった。わたしも、どちらかといえば嫌いなほうだけど、泣くほど嫌いだなんて。
「梅雨だから、仕方ないよ。これから一ヶ月くらい、降ると思う」
「つゆ……? つゆってなに? 僕、そうめんにつける“つゆ”しか知らないよ」
「梅雨は六月ぐらいから降る雨だよ。知らないの? 去年も、一昨年も、あったでしょ」
「知らない。北海道にはつゆなんてなかった」
いやいやする子供みたいに首を横に振るハルタくん。
北海道には、梅雨がないんだ。
初めて知った。梅雨は、どこにでもあるものだって思ってたから。
梅雨を知らないなら、これから一ヶ月間、雨が嫌いなハルタくんはつらいんじゃないだろうか。雨が少し苦手なわたしだって、つらいもん。癖っ毛の髪の毛が毎日ピンピン跳ねて、うっとうしいって思う。お母さんは美容室で梅雨に対抗するために、髪の毛をきれいにしてもらっているからずるい。わたしはただ、梅雨が過ぎ去るのを、じっと待つだけだ。
だけど、わたしは雨にもいいところがあるって知っている。
ハルタくんに教えてあげなくちゃ。
「ねえ、雨は確かに嫌だけど、いいところもあるよ。わたしが、“雨の国”に連れて行ってあげる!」
「雨の国? それってなに?」
ハルタくんの顔から涙がすっと消える。わたしの次の言葉を、心待ちにしてくれているようだった。
「雨の日を、今より好きになれる国! 今日の放課後、わたしの家に来て」
「うん」
転校して早々家に呼んでも来てくれないかなって思ったけれど、意外にもハルタくんはすぐに頷いてくれた。
そうと決まれば、楽しみだ。
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