3人が本棚に入れています
本棚に追加
『むかしむかし、あるところに晴れの国で育った王子様がいました。
きらきらとした太陽のもとで育った王子様は、みんなからしたわれていました。
ある日、王子様はとなりの国の悪い女王様につれ去られてしまいます。
気をうしなっていた王子様が目をさますと、そこには見たことのない光景がひろがっていました。
大地はくさってあれていて、農作物はひとつも育っていません。
きわめつけは、大雨でした。
王子様は生まれて初めて雨がどんなものなのかを知りました。
——この国では、ずっと雨がふっているの?
王子様が女王様に聞きます。
——当たり前よ。だってここは、“雨の国”なんだから。
王子様は、自分がつれてこられたのが“雨の国”だということに、とてもびっくりしました。
晴れの国で、雨はふりません。だから、農作物には人の手で水をやっていました。
でも雨の国では雨しかふりません。太陽の光は、人の手では再現できないのです。
王子様は、暗い海の下にしずんでいるような雨の国を気のどくに思いました。
そこで、彼は晴れの国の力をつかい、雨の国に太陽の光をあげることにしたのです。
——おぬし、何をやっているんだい? 太陽を出すなんて、勝手なことをしたらゆるさないぞ。
女王様はおこります。
——大丈夫! 太陽は悪さなんかしないよ。ちょっとだけ、大地に光をあげるだけだから。
王子様がにこにことして太陽を呼びよせると、太陽はまたたく間に雨雲をおいやり、大地に光をそそぎました。
すると、どうしょう。
くさってかれていた農作物が、ぐんぐん茎をのばし、葉をつけて、花を咲かせます。
動物たちが山から姿をあらわして、楽しそうに走り回ります。
人間たちも、家から出てきて太陽の光をいっぱいに浴びていました。どの人たちもとっても嬉しそう。女王様はおどろいて、こしを抜かしてしまいました。
——ねえ、もっと見てて。
王子様の言う通り女王様が外をながめると、さっきまで雨がふっていた空に、七色の虹がかかっていました。地面にたまっていた水滴はキラキラと日の光をはんしゃして、美しくかがやいています。
——あれは、なんだ……? あの光のすじは、なんなんだ?
——虹っていうらしい。僕も初めて見た! 僕の国は雨がふらないから、虹もかからない。虹は雨上がりの空に、ときどき現れるんだって、父さんから聞いたことがあるよ。
こうふんした王子様が、女王様と虹について語り合います。
——虹か。私も初めて見た。こんなに、きれいなんだな。
——そうだよ! 雨と晴れ、両方あるから虹が見られる。雨も晴れも捨てたもんじゃない!
これまで、雨の国の女王は晴れの国の人間に悪さをはたらいてきました。
けれど、晴れの力があれば、雨の国で美しいけしきが見られると知り、今までの自分の行いをはんせいしたのです。
それからというもの、晴れの国と雨の国の人間たちは、仲良く行き来をはじめ、お互いの国の良さを知っていきました。
晴れと雨が仲良くすること。
そうすれば、雨上がりの空を見たときのように、心が洗われていきます。
こうして二つの国の人たちは、その後もずっと交流をつづけ、仲良く暮らしましたとさ。』
最初のコメントを投稿しよう!