雨の国

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『むかしむかし、あるところに晴れの国で育った王子様がいました。  きらきらとした太陽のもとで育った王子様は、みんなからしたわれていました。  ある日、王子様はとなりの国の悪い女王様につれ去られてしまいます。  気をうしなっていた王子様が目をさますと、そこには見たことのない光景がひろがっていました。  大地はくさってあれていて、農作物はひとつも育っていません。  きわめつけは、大雨でした。  王子様は生まれて初めて雨がどんなものなのかを知りました。 ——この国では、ずっと雨がふっているの?  王子様が女王様に聞きます。 ——当たり前よ。だってここは、“雨の国”なんだから。  王子様は、自分がつれてこられたのが“雨の国”だということに、とてもびっくりしました。  晴れの国で、雨はふりません。だから、農作物には人の手で水をやっていました。  でも雨の国では雨しかふりません。太陽の光は、人の手では再現できないのです。  王子様は、暗い海の下にしずんでいるような雨の国を気のどくに思いました。  そこで、彼は晴れの国の力をつかい、雨の国に太陽の光をあげることにしたのです。 ——おぬし、何をやっているんだい? 太陽を出すなんて、勝手なことをしたらゆるさないぞ。  女王様はおこります。 ——大丈夫! 太陽は悪さなんかしないよ。ちょっとだけ、大地に光をあげるだけだから。  王子様がにこにことして太陽を呼びよせると、太陽はまたたく間に雨雲をおいやり、大地に光をそそぎました。  すると、どうしょう。  くさってかれていた農作物が、ぐんぐん茎をのばし、葉をつけて、花を咲かせます。  動物たちが山から姿をあらわして、楽しそうに走り回ります。  人間たちも、家から出てきて太陽の光をいっぱいに浴びていました。どの人たちもとっても嬉しそう。女王様はおどろいて、こしを抜かしてしまいました。 ——ねえ、もっと見てて。  王子様の言う通り女王様が外をながめると、さっきまで雨がふっていた空に、七色の虹がかかっていました。地面にたまっていた水滴はキラキラと日の光をはんしゃして、美しくかがやいています。 ——あれは、なんだ……? あの光のすじは、なんなんだ? ——虹っていうらしい。僕も初めて見た! 僕の国は雨がふらないから、虹もかからない。虹は雨上がりの空に、ときどき現れるんだって、父さんから聞いたことがあるよ。  こうふんした王子様が、女王様と虹について語り合います。 ——虹か。私も初めて見た。こんなに、きれいなんだな。 ——そうだよ! 雨と晴れ、両方あるから虹が見られる。雨も晴れも捨てたもんじゃない!  これまで、雨の国の女王は晴れの国の人間に悪さをはたらいてきました。  けれど、晴れの力があれば、雨の国で美しいけしきが見られると知り、今までの自分の行いをはんせいしたのです。  それからというもの、晴れの国と雨の国の人間たちは、仲良く行き来をはじめ、お互いの国の良さを知っていきました。  晴れと雨が仲良くすること。  そうすれば、雨上がりの空を見たときのように、心が洗われていきます。  こうして二つの国の人たちは、その後もずっと交流をつづけ、仲良く暮らしましたとさ。』
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