6・耳をぱくり

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 寒いルーンセルンでここまで見事に咲かせるのは、いくら温室とはいえ大変だっただろう。  尊敬の念を抱いて、ヴィエラが改めて温室を見渡していると、見覚えのある花を見つけた。  アネモネだ。  オズウェルが毎朝贈ってくれる花と同じもの。   「もしかして、あなたが毎朝くれるアネモネってここに咲いているもの?」  まさかと思って尋ねると、オズウェルは「ああ」と頷いた。 「ずっと、アネモネのお礼を言いたいと思っていたの。毎朝、ありがとう」  お礼をようやく伝えられてヴィエラは一安心する。  オズウェルは口元を緩めた。   「気に入ったのならよかった。ここに咲いている花々もすべてお前のものだ。好きにくつろぐといい」 「い、いいの? ありがとう……!」  この城で一つ、ヴィエラのお気に入りの場所ができた。  オズウェルからの許可も貰えたので、好きな時に見に来ても大丈夫だろう。 (でも……)  こんなに美しい庭を、一人で楽しむのはなんだか味気ない。 (できることなら、また……オズウェルと見たい)  どうしてそう感じたのだろう。
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