向こうの国

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「帰りなさい」 「帰らない」 「帰りなさい!」 「帰らない!」 「まったく菜々はワガママなんだから」  ため息混じりにお母さんは窓の外を見た。 「あら、雨だわ」  お母さんは慌ただしく支度をし始めた。 「買い物?」 「ううん。お父さん今日傘持って行かなかったから駅まで迎えに行かなきゃ」 「お母さんは過保護だなぁ」 「そりゃ、お父さん大事だもの」  娘の前で良くいえるものだ。 「あ、ついでだからお父さんとご飯食べてきちゃおうかしら。駅前のレストランのクーポンあったんだっけ」 「私も行く!」 「あんたは帰りなさい」  お母さんは髪をとかし口紅を塗るとさっさと出かけてしまった。 「まったく、いい年してラブラブなんだから」 「菜々もそうなれば?」 「うちは無理。渡は私なんかより会社の飲み会の方が大事なんだから。もしかしたら職場にいい人がいるのかも」 「そんな事あるわけないじゃないの」  結婚してないお姉ちゃんにいわれたくない。男なんて釣った魚には餌を与えないものなんだから。 「じゃあ好きにすれば」  お姉ちゃんは電気ポットに水を入れお湯を沸かし始めた。戸棚からカップラーメンを取り出し封を開けた。 「私もそれでいい」 「1個しかないのよ」 「えー、じゃあ私は何を食べればいいの?」 「帰って作れば?」  優しかったお姉ちゃんもお母さんに似てきたようだ。小さい頃はいつも私の味方だったのに。 「いいもん。コンビニで何か買ってくる」  立ち上がると突然大きな音がした。雷だ。 「大分雨も強くなってきたわね。雷も近いし。気をつけて行ってらっしゃい」 「えー!」  私が雷苦手だって知ってるくせに。お姉ちゃんの意地悪!
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