向こうの国

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「いい。1日くらい食べなくても平気だもん」  その時タイミング良く、悪く? 私のお腹が鳴った。 「素直に帰ったら? 雨降って地固まるっていうじゃない? 夫婦ってそんなもんらしいわよ」 「うちは地盤沈下してるよ」 「それは雨が止んでみなきゃ分からないでしょ?」 「うちの雨は一生止まないよ」 「そんな雨あるわけないわよ。雨が上がれば虹も出る」 「出ない時の方が多いよ」  電気ポットのスイッチが切れた音がした。お姉ちゃんはカップラーメンにお湯を注いだ。 「奈々、私と賭けをしない?」 「賭け?」 「うん。私に凄く不利な賭け」 「え、何?」 「この雨が止んで虹が出たら菜々は帰る」 「虹が?」  雨が止んだからといって必ず虹が出るわけじゃない。それにもう夕方だ。お日様も沈みかけている。真昼だったら出るかもしれないけど、こんな時間じゃ先ず出ないだろう。 「じゃあ虹が出なかったら?」 「お母さんを説得してあげる」 「本当?」  かなり私に有利な賭けだ。なら今夜は久しぶりに自分の部屋でのびのび寝られる。いつも横から渡のイビキが聞こえてきてうるさいったらありゃしない。寝言をいっては私に抱きついてきたり、明け方寒くなると自分の方へ布団を持ってっちゃうし。ダブルベッドになんかしなきゃ良かった。  それからゴキブリが出ても渡は怖がって私の後ろに隠れる。ジェットコースターに乗ろうと誘っても何だかんだ言い訳をして回避する。私の機嫌の悪い時は洗い物をしてご機嫌を取ろうとする。お酒は弱くてすぐ赤くなるし眠っちゃう。私の方が強い。一緒に飲んでも面白くない。休みの日は一緒に出かけたがって私が朝ごはん作ってる間に洗濯をしてくれちゃう。怖がりなのに私が好きなホラー映画を一緒に観る。殆ど下を向いていて何も観ていない。後で感想を言い合えなくてつまらない。  あんな怖がりで頼り甲斐のない旦那なんて願い下げだ。家で小言をいわれながら暮らした方が何倍もマシだ。  雨はまだ降っている。どんどん暗くなってくる。夜まで止まないかもしれない。これじゃあ虹なんて出るわけがない。私の勝ちだ。お姉ちゃんが説得してくれればお母さんだって折れるはず。  虹……出るわけないよね……。
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