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「今度は何なの?」
呆れ顔でお姉ちゃんが聞いてきた。
「また菜々のワガママ?」
「そんなんじゃないもん!」
私よりずっと綺麗で賢いお姉ちゃん。誰もがお姉ちゃんの方が先に結婚すると思っていた。でも何故か私の方が先にお嫁に行った。お姉ちゃんに比べたらどん臭くて平凡な顔の私が結婚したいといったら、両親は大喜びした。
「菜々は結婚できないと思ってた。奇特な人もいるもんだ。感謝して良い奥さんになりなさい」
どんないわれ方だ。そりゃお姉ちゃんは家事も完璧、保育士をしているので嫁に欲しいと引く手あまた。それなのにお姉ちゃんは仕事に情熱を燃やして未だ独り身。人生何があるか分からない。そう、分からないのだ。
「今度こそ離婚するかも」
「離婚なんてしたらもういい人現れないかもしれないよ」
「いい人? アイツはいい人なんかじゃない! だって、だって昨日……!」
昨日は私の誕生日だった。なのに渡は会社の飲み会に行ってしまった。帰ってきたのは午前様。今朝も普段と同じ顔をして仕事へ行った。これは怒っていい案件だろう。いや、三行半を突き付けてもおかしくない悪行だ。
「そんな事いってないで、さっさと帰って夕飯作ってあげなさい。妻の勤めも怠って、何が誕生日よ」
お母さんの言葉はキツい。そりゃ料理は美味しくないかもしれない。掃除も手抜きだ。でもそれは段々と上達するもので、最初から上手な人なんてお姉ちゃんくらいしかいない。
「もう帰らない」
「何いってるの。渡さん心配しちゃうわよ」
「心配なんかするわけないよ。誕生日忘れるくらい冷たい人なんだから」
「何が誕生日よ。子どもじゃあるまいし。私は誕生日なんて嬉しくも何ともないわよ」
「そりゃお母さんくらいの年になれば年も取りたくないだろうけど。そうじゃなくて、気持ちよ気持ち」
別に年を取ったお祝いをしてもらいたいわけじゃない。「生まれてきてくれてありがとう」。それが誕生日をお祝いする目的なんじゃないのかな。生まれてきたから巡り会えたんだし、一緒に生活して楽しく過ごせるし、安心だし寂しくないし幸せだし。私はそう思っている。でも渡は違うみたいだ。一方通行の片思い。
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